第5話 ある日、突然、美少女に 5
「うぅっ、もうお嫁にいけない……」
「フー……まったく何を言っているんだ君は」
簡易ベッドの上でシーツを噛みシクシクと泣き真似をしているロウにアヤカはカカオシガレットを本物のタバコのように吸いながらこたえる。
側から見たら純情を散らした少女とちょいワルな彼氏の事後、みたいな絵面になっている。
「なんだ、まさか胸囲を測定している時に乳首が立ってしまった事を気にしているのか? それとも思ったより敏感になっていて薄っすらぬ……」
「わーーわーーわーー!! うるさい! ヤメロー! ヤメロォ!!」
羞恥で顔を真っ赤にして叫ぶロウに対しアヤカはニヨニヨと意地悪な笑みを浮かべている。
「フフフ…….まぁ、書類の偽造……もとい準備にもそれなりに時間がかかる。 用意が出来るまではこのビルに泊まっていたらいい。 それにその身体に
「えっ!? ここに泊まるんですか?」
ロウは周辺を見渡すが人が寝れるスペースなどこの拘束具付きの簡易ベッドしか見当たらない。 そもそも真津戸アヤカはここに住んでいるのだろうか?
「ん? あぁ、この部屋じゃあないよ。 このビル一棟まるまる私が所有している。 私はこの上の階に住んでいるが、この部屋同様少々散らかっているからね、別の部屋がいいだろう。 たしか5階あたりは空いていたはず……」
「え? もしやめっちゃお金持ちなんですか?」
若くしてビルを所有しているとは、少々片付けが出来ない汚部屋に住んでいてジャージに白衣という独特なファションをしていて美少女に目がない変態、ぐらいにしか思っていなかったロウは金の匂いに敏感に反応する。
この男……今はもう女だが、八咫綱家は代々続く名家である。 だが、あまりに厳しく育てられた為に自分が自由に出来る金銭など殆ど与えられていなかった。 現在も生活するに最低限の仕送りがあるだけで他はバイトで賄っているロウには余計な物を買う余裕などない。 その為、お金持ちとかに過剰に反応してしまう所があったりする。
「君の言う『めっちゃっお金持ち』の定義が曖昧だが……いくつか特許を取った発明品などもあるし金銭的に困ったり不自由した事はあまりないな。 そういえば君の
第一種具象化能力──通称マテリアはダンジョンに初めて入った時に殆どの人が手にする能力の事だ。 炎を出したり、冷気を出したり、剣や槍などの武器を出したりとダンジョンを攻略する上で効果的な能力である。
さらに第二種領域能力──通称レルム、第三種超越能力──通称トランスと段階的に強力な能力へと進化していったりする。
因みにレルムまで発現する生徒は全体の8%程度であり、トランスまで発現した者は僅か数人しかいない。 その希少性と強力な戦闘力により
そして八咫綱ロウの能力とは…………
「えっと……縄……とか出せます……」
「縄? なんだいそれは? 首でも括るのか?」
自身も現役の頃は優秀な
そんなアヤカのモットーとは『どんな能力でも必ず使い道がある』というものだった。
しかしそんなアヤカを持ってしても……
「ふむ、なるほど。 大体戦闘で使えない能力の多くは生産系や雑務に使用用途があるが……縄……縄か。 首を括る以外には捕縛や救助といった所だが。 古い所で言えば昔は田畑の測量などに使われていたそうだが。 そもそも市販の縄で問題なかったりするしね……そうだ! 縛り方を覚えてフェアリーテイル女学院にいる美少女達にそういったプレイをしてみるのもいいかもしれない!」
「イヤだよっ!? オレが変態だと思われるじゃないか!」
市販品の縄で出来る事をわざわざ能力を使ってやる訳だから、それなりにメリットが無ければその能力はハッキリ言ってしまえば"なくてもいい"能力な訳で……
それによって変態のレッテルを貼られるかどうかはさておき、美少女を縛るというのは能力を使えば出したり消したり出来る訳で、縄を握ってゲヘゲヘと下卑た笑みを見せながら近づくような不信感を与えないで済む、という点でいえば1番有効利用できるのかも知れない。
「縄……というと代表的なのは麻や藁などを撚り合わせて作ったものだが、太さはどれくらいなんだい?」
アヤカの問いにロウは手の内に一本の縄ん出現させるとアヤカに見せるように前に差し出す。
「なるほど。 なかなかしっかりした縄だね。 そして普通の縄だ。 これは太くしたり細くしたりは出来ないのかい?」
「出来ますよ、そこら辺は魔力の調節で。 これぐらいが使いやすいかなと思ってこれぐらいにしてるけど、やろうと思えば神社のしめ縄ぐらいから糸ぐらいまで変えられます」
「おお! 糸! 強度はどれくらいだい!?」
糸ぐらいに出来るというロウの言葉にやけに興奮した様子でアヤカの目が見開かれる。
「えっ? 糸はやっぱり細くなった分、強度は下がりますよ。 普通の糸ぐらいの強度ですね」
ロウにとっての普通がアヤカやその他の人物にとっての普通かは分からないが、この場合のロウの普通は衣服や織物に使われる程度の糸の強度を想像し普通と答えている。
「普通……。 それは君が
そういってアヤカは部屋の端に積み重ねられた様々な物をどかしながらガサゴソと何かを探し始める。
「あったぞ。 これはダイニーマという糸でね高強度ポリエチレンで作られていて防弾チョッキなどに使われているケブラー糸、
ロウは差し出された糸巻きに巻かれた状態の糸を解いてその硬さを確かめていく。
「確かにめちゃくちゃ硬いですね。 触っただけで絶対に手じゃ引きちぎれないのがわかりますね……出来るかな……」
左手にアヤカに渡されたダイニーマ糸を持ち、右手に能力で再現してみると見た目はそっくりな糸が現れる。
「ほぅ。 触ってみてもいいかな? なるほど、感触は似ているね。 正確な強度は専用の機器が無ければ測れないが十分な強度だろう。 どうだい、この糸があれば糸使いなんていうロマン溢れる戦闘スタイルも可能だけれど」
アヤカはロウの作り出した糸を触ったり引っ張ったりしながら感触を確かめていく。
「そんな厨二病みたいな……」
「厨二病で何が悪い! 銀髪の謎の美少女が糸を使って強敵を撃破していく! あぁ……なんとも素晴らしいじゃないか! 良し! 私が専用の装備を作ってやろう! なぁに、君は私を信じていればいい。 ぐふふふふ」
アヤカの脳内では長い銀髪をツインテールに結び、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ美少女が不敵な笑みを浮かべ高強度な糸によりダンジョンのモンスターを細切れにしている絵がありありと浮かんでいた。
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