第3話 ある日、突然、美少女に 3


 着いたのはロウが道に迷った初心者ダンジョンから直ぐの場所だった。

 女性が乗ってきた大型バイクで移動したので体感的にはほんの数分で着いた感じだ。


「それにしても、あんな場所から救援信号が届くとは思わなかったよ」


 ロウは自分が方向音痴なので道に迷った時、既に救援信号を出していた。 ダンジョンを探索する上で必須の救援信号は専用のアプリをスマホにインストールしておけばいつでも使える。

 各学園には救助や救援等を専門にする部活動や委員会などが設置してあったりする。


 レベル1の初心者ダンジョンで救援信号を出すなんてそうそう有ることでは無く、やはり八咫綱ロウも自尊心と羞恥心により救援信号を出す事を躊躇っていたが背に腹はかえられないと出していた。

 

「あはは……なんかすいません。 自分、方向音痴なんですよ」


 雑居ビルの駐車場にバイクを停めて女性のラボへと向かいながら雑談をする。

 エレベーターへと乗り込むと8階の数字を押す。


「フフフ、中々に上手いジョークだね。 ところでどうしてあんな場所で死にそうになっていたんだい?」


 ロウにとっては至って真面目に方向音痴を告白したつもりだったのだが女性にはジョークとして受け取られたようだ。 まともな人間がレベル1のダンジョンで道に迷うとは誰も思わないようだ。


「あー…………実はクラスメイトに置いていかれちゃってて……」


「なるほど、そう言う事か。 君はクラスメイトにあの場所で暴行を受け、動けなくなる程の怪我を負い休んでいた所をケイブウルフの群に襲われた、と。 そう言う事だろう?」


「あー……はい、まぁ大体あってます……」


 暴行は受けたには受けたが大した怪我でも無く、実際はウロウロと迷って徘徊したせいでケイブウルフの群に襲われたのだが……


「ふむ。 やはり君はうってつけな人材の様だ。 きっと君はクラスメイト達から虐められているのだろう。 そうだな……理由は第一種具象化能力──マテリアが戦闘向きでは無い、もしくはダンジョン向きではない能力なのだろう」


「うっ……ま、まぁおおむね、その通りかと……」


「悪人ばかりの世の中だ、そんなんではすぐに騙されてしまうよ。 生きやすくなる簡単な方法を教えよう」


 そう言って女性は人差し指を立てる。


「誰の事も信じない事だ」

 

 エレベーターが8階へと着くと、目の前のドアの鍵を開けて中へと入って行く。

 どうやらこの雑居ビルは1フロアに1室しかないタイプのようでこの部屋の他には非常階段へと続く扉以外無いようだ。


「ようこそ、わがラボへ! おっと、自己紹介がまだだったね。 私は真津戸まつどアヤカだ。 見ての通りここで様々な研究をしている天才発明家でありピチピチの19歳だ」

 

 そう言って部屋の中へとロウを招き入れる。

 自らを冗談ではなく天才と宣う人間をロウは見た事が無い為に、それはこの女性なりのジョークなのだろうと思う。 19歳というには幼い顔立ちからも、もしかしたらそれもジョークなのかも知れないと話し半分に聞き流しロウは部屋の中へと足を踏み入れる。 中は雑然としていて一見まとまりの無い様に見えるが、所々に怪しい液体の入った試験管やビーカーがあったり何に使うか分からない機械があったりと、一応は何かしらの研究をしている事が見て取れる。

 部屋の中央に置かれている拘束具の取り付けられている簡易ベッドが異様な存在感を放っているが。


「あ、オレは八咫綱やたづなロウって言います。 九頭高の一年です」


「ほぅ、クズ高か。 ロウ君、君はクズ高から離れ新たなる地で高校生活を満喫したいとは思わないかい? 今みたいに友達も彼女も居らず虐められる事もなく、美少女の多い学校でやり直すんだ」


「び、美少女の多い学校!?」


 友達も彼女も居ないと断言する真津戸アヤカに猛然と抗議をしたい気持ちになったロウだったが、確かに高校に入学して2ヶ月、友達と呼べるような存在は無く、勿論彼女だって居なかった。

 そんな八咫綱ロウであるから、やはり美少女の多い学校というフレーズに心惹かれてしまう。


「ああ、君も知っているだろう? フェアリーテイル女学院だ」


「……いやいやいや、ちょっと期待したオレが馬鹿でしたよ。 オレが入れる訳ないじゃないですか」


 まったく何を血迷ったのか、とでも言いたげにロウは大袈裟に肩を竦めると、これ見よがしに大きく溜息を吐く。


「ん? どうしてだい?」


「どうしてって、そりゃあフェアリーテイル女学院は美少女が多いって有名ですけどね、女学院ですよ、女! 学! 院! つまり女の子しか入れないんですよ!」


「なんだ、まだ気がついていなかったのか。 通りで、想像よりも平然としているから肝の据わった奴だと感心していたんだが。 ただの鈍感、ニブチン、自分の違和感にも気が付かない察しが悪いを通り越してただの出来損ないだったとは。 ほら、入り口の横に鏡がある。見てみるといい」

 

「な、なんだよ違和感て……」


 真津戸アヤカのあまりな言いように、その意外と繊細な心を傷つけられたロウはすごすごと言われた通りに入り口付近まで戻ると、鏡を見てみる。


「な、なななななんじゃこりゃあぁぁあ!?」


「全く、驚き方まで0点だな君は。 美少女はそんな驚き方はしない」


「いやいやいやいやいやいやいや! えっ!? なんでオレ女の子に!?」


「まぁ、まだ実感が湧かないだろうからとりあえず、服を脱いで色々と確認してみたらいい」


「こ、これがオレだと……」


 ロウは制服のブレザーとズボンを脱いでシャツとトランクスだけになると、自分の身体が美少女になっている事がより鮮明に突きつけられる。


 女性らしい胸の膨らみにキメの細かな肌、産毛の一本も無いような白い手脚。

 そして何よりも本来なら股間についているべきモノが無い。


「今まで無かったモノが付いていて、あったモノが無くなってる!?」


 驚愕と共に自分の胸の膨らみと股間を確認していると──


「フフフ、どうだい? 完璧な美少女だろう?」


 そう声をかけられて振り向くと真津戸アヤカがやけにウットリとした表情でロウの事を見つめていた……。




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