2


マイナンバーカードが見当たらない、れい、どこにやったの?

財布?見たわよ、無いわ。

保険証?あるわよ。これと一緒には入ってないわ。

再発行の手続き?私が?できないわよ、そんなこと。

町役場まで行け?一人で?いやよ。私車の運転できないもの。

歩く?無理よ、15分も歩くなんて。

そう、れいが連れて行ってくれるのね。よかったわあ。


◇◇◇◇


図書館に本を返しに行きたいんだけどね。誰も車に乗せてくれないの。

え?頼んでないわよ。だって恥ずかしいじゃない。

タクシー?そうねえ……誰かタクシー呼んでくれる人がいればいいのにねえ。

バス?バス停まで行くのも疲れてねえ。


◇◇◇◇


日が暮れてくるとね、もう何もかも嫌になるのよ。

この家に独りぼっちかって思うとね。情けなくなってねえ。

どうしてこんなふうに。この家に一人取り残されるような事態になってしまったのかしらね。

やっぱり親戚の人たちの行ってた通り、母さん馬鹿だからだろうねえ。

でも、賢いって何よ?頭がいいって何よ?

私の何が馬鹿だったのか、れい、言ってみなさいよ。

言えないじゃないの、みんな、そうだったわ。

もういいわ、この馬鹿!


◇◇◇◇


この家に、誰も来てくれないのよ。

私、ずっとひとりぽっちなのよ。

可哀そうでしょ。

泣いててもどうしょうもないんだけどね。

でも、涙流れてくるのよ。

誰か傍にいてくれたらなあ、って。

呼べばすぐにこの家に来てくれる人、いないんだよねえ。

隣の市にいるお母さんの妹?ダメに決まってるでしょ、確かに依子も一人暮らしだけど、そうはいかないじゃない。

一週間に一度は娘さん来てくれてるのよ。羨ましいわ。

泊まり込みの家政婦?いやよ、赤の他人なんて。そんな馬鹿な事、まだ言うのね、れい

え?れいの家の近くに住む?

じゃあ、この家は?もったいないじゃない。少しは考えなさいよ、この馬鹿。

そもそも、私、引っ越しなんて面倒よ。


◇◇◇◇


デイサービス?

それ、いろんな人に言われるのよね。

面倒だし、嫌よ、知らない人たちの中に入っていくのは。

地域包括センター職員の巡回?

それで何をするの?家の中に入れなくちゃいけないの?

怖いから嫌よ。

挨拶だけって、そんなの、ご近所の人にしているからいいじゃないの。

え?外に出てないだろうって、そんなことはないわよ!

ちゃんと私だって外に出て、いろんな人と会って、会話しているわ!

馬鹿にして!!


◇◇◇◇


父さんのすぐ下の妹の、うん、あの叔母さんね。息子さん結婚してないんだって。でも一緒に住んでるんだって。

その息子さんのご飯作るのが面倒だって、愚痴こぼしていてね。

子どもの面倒みるなんて当たり前なのにね。

それが自分の仕事じゃないの。ほんと、何をふざけた事を言ってるのだろうね、あの人は。

…え?なに、れい、あの人の肩持つの?なんで?母さんより、叔母さんの事かばうの?どうして?どうして母さんの味方してくれないの?

違わないでしょ、今の言い方、母さんを馬鹿にしてるんでしょ。

お前から見ても母さんは馬鹿なのね。もういいわ、うるさい!この馬鹿!


◇◇◇◇


雅人さんのお母さんは元気なの?

そう、まだ働いてるのね。

娘さんの…名前なんだったかしら、そうそう、直美さん、あの人も元気なの?

え?会ってないの?礼ってばそんな不義理な事していいと思ってるの?まったく馬鹿なんだから。

でも、雅人さんのお母さんはいいわねえ、娘さんと一緒に住んでいるんだから。

れいが子ども産んでくれてたら、孫を見せにうちにたくさん来てくれるはずだったのにねえ。

子どもできないなんて、本当、お前は馬鹿よねえ。


◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る