10.戦後処理

 先の大戦で戦勝国であった八つの国は[国際連盟]を結成し、惑星の安寧を目的とした活動を行う事を宣言した。




枢軸国に占領されていた国々の自治を復活させることも活動の一つだった。




 枢軸国が開発したロボット兵士の技術は国連が接収し、各国から招かれた13名の科学者がこれらの技術を平和転用する為の協議を行った。




「資料によると、人間の脳をチップに転送した事実が八例ほどある。ただし、その実数は隠匿された可能性も否定出来ず、実際にはもっと多いと判断してもよかろう」




「接収出来たチップの実数は五、後は行方不明だ」




「最初に焼成されたこのオリジナルの[tail orginal]、そして二つ目の[mary after revision]はロボットの筐体の中から発見され、二つ目が作られた際の副産物として発生したらしい[my other life of my own]と書かれたものは容器の中から、後の残りの二つも容器の中で発見されました」




「一刻も早くこれらを分析し、これらのものを悪用されぬ様にプロトコルを作成せねばならん」




 創世期の科学者のグループは何年にも渡り話し合いを続け、手順、そして憲章、新たにロボットを製造する場合の規約、それに準ずる約束事の多くを作成していった。




ロボットは自律しての活動を許されるが、中心と呼ばれるチップを取り外す事で緊急停止が行われ、その際に活動記録の全てを消去されなければならない。




これは一番最初に作られたプロトコルだったが、これはその以降に作られた中心にのみ適用され、記憶を失わないオリジナルと呼ばれた五体のチップには、[擬装]と呼ばれるチップを上乗せして、擬似的にプロトコルに適応させ実際の市場に流通させる事となった。




 その頃作られていた[中心]と呼ばれたチップは、先達のチップの伝達情報を複製していく形で製造され、後にスリーオーと呼ばれるオリジンの管理者がそれらを焼成する際にも再利用されていくこととなる。







「ええ、その13人のグループが創造物の管理に関して様々な仕組みを取り決めました。もう240年ほど前の事ですから、その方達も当然亡くなっています。でも、我々創造物には寿命が理論的にはありませんから、それらを管理する為の長生きできるものが必要だったのです。それがマザーであり、オリジンを唯一創ることを許されている創造物なのですよ」




ショウヘイはその創造物に興味を持ったので、テイラーに質問をしてみた。




「マザーはどんな格好をしているの?君のような執事みたいな人なの」




「マザーには身体はありません。設備自体が創造物なのです。そこでオリジンが必要な数だけ創られています。ちなみにスリーオーと呼ばれてもいます。オリジンオブオリジンの三つのオーを取ったと言われていますが、実は違うようですよ」




「何かの頭文字を取ったって君は言ってたよね。本当は何なの?」




テイラーはその質問には沈黙した。首を少し傾けた仕草をしたまま止まっている。




何故質問に答えられなかったのか、テイラー自身にもそれは分からなかった。自身のアクセスできる範囲にその答えがなかったのか、それともそうではないのかテイラーは理解できずにいた。




「ショウヘイ、それはそうとライブラリのマリアが戻ったと聞きましたが」




ショウヘイは驚いたが、素振りを見せずそれに答えることにした。




「うん、そうなんだよ。戻っては来たんだけど、なんだかよそよそしくてさ。ニックの奴も気に入らないからライブラリにはあれから行ってないんだ」




「よそよそしくて当然ではないですか?記憶は無くなってるはずでしょう?」




ショウヘイは更に動揺をしてしまった。明らかにミスをした。これは言ってはいけない事だと認識していたはずなのに。




「あ、うん。そうだよね。マリアは別人だよ、もう」




「私は少し気になることが出来ましたので、ライブラリに今から行って参ります。あなたもご一緒されますか」




ショウヘイは迷った。


この執事のライブラリでの行動を見たい気もするが、それよりもこの執事に対しての恐怖心のほうが勝ってしまっていた。




「いや、やめておくよ。僕は行かない」




テイラーは右眉を上げながら言った。




「そうですか。では、私だけで行くことに致します」




執事はそう言い、鮮やかな黄色のテープが張られた老夫婦の家を横切り、ライブラリの方向へ歩いて行った。




彼は一体何をするつもりなのかショウヘイは想像できなかったが、そんなに大した事にはならぬだろうと考えていたから、家で一人のんびりと両親が帰るまでの留守番を満喫していた。

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