7.古きよきもの
「おい、ビンセント。もう後二日だぜ。俺たちの運命もよ」
「そうだな、相棒。お前とは永く仕事を一緒にしてきたが、ここでお別れだな。名残惜しいぜ」
ふたりは後輪をドリフトのようにスライドさせながら的確にピッキング区間に進入し、目的のパレットを掬い出し、トラックヤードに運ぶことを繰り返していた。
その時、ビンセントが緊急停止した。
「おい、危ねえ。人間様は専用通路だって言ってるだろうが!」
ラックの横に女が立っていた。
「どうしたビンセント。また人間様が聖域に侵入したのか」
「おい、チャーリー。こいつは人間様なんかじゃねえ。創造物だ」
チャーリーは言う「おいお前、俺様たちの邪魔をするんじゃねえ。ここには決まりがあるんだ。ビンセントはこっち、俺はあっちだ。そして半人前は・・・」
「Gロケーションよね」
侵入した女型の創造物が言った。
「なぜお前がそれを?」
「久しぶりね、二人共。元気にしてた?」
「お前、もしかしてマリアなのか?マリアか!おお、久しぶりじゃねえか。お前こそ何してたんだ」
「私はあれからライブラリで働いていたの。今日は貴方達にお願いが有ってやって来たのよ。うふふふ」
マリアは二人を見上げて笑っていた。
「おう、マリア。もう少しで明日の分の半分が終わるからそれまで待ってろ」
「うん、いいわよ」
~
「ねえ、あなた達、もうすぐお仕事辞めるって聞いたの。ほんとなの」
「ああ、そうさ。後二日でお払い箱さ。オリジンを抜かれてそれでお終いだぜ」
「あなた達、それ本当だと思っているの?」
「なんだそれは。何が言いたい」
「あなた達の中心は、他のものとは違うはずよ」
「どう言うことだ。意味が分からんぞ。おいマリア、お前なにを頼みに来た」
「あなた達は『古きよきもの』なの。古いからこそ何者の制約も受けない」
三人はそれからしばらく話し合っていた。
マリアが突然言葉を発した。
「二人共!プロトコル5633よ。覚悟なさい!」
その途端リフトマシンは微動だにしなくなり、マリアは彼らの後側のハッチを開けて何かを取り出した。
その後彼女はそこから去り、動かなくなった機械が二体残された。
『まだ探さなければ。古きよきものを』
ヒト型の女ロボットは暗闇の中に消えていった。
〜別の日〜
少年はマリアがライブラリに戻ったことを執事に話そうかどうかを迷っていた。
「ねえ、マザーセンターってなんなの?」
「マザーは我々を創り出す場所ですよ。オリジンもそこで生成されます。なぜ貴方が?」
「いや、昨日ライブラリの“ニック”から聞いたんだ。そこは工場みたいな所なのかな。ロボット達を修理したりすることも?」
「そうです。補完作業や修繕作業も創造物自身が行っています。創り出すのもそうですよ。彼らが彼らを創っている。そんな場所です」
「オリジンも彼らが作っているんだね」
「そこは違います。そこだけは。オリジンは別の創造物が創ります。ただ一体の創造物だけがオリジンを創ることを許可されています。マザーとはその創造物の名前を模したものです。因みにマザーセンターと呼ぶのは最近です。我々は畏敬を込めて彼女の事を“マザー”と呼びます。そのマザーが多くの創造物のオリジンを管理しているのですよ」
少年は興味があることに遠慮はなかった。
「テイラーは行ったことあるの?」
「私は行ったことはありません。ただ、前の記憶にはあるかもしれませんね」
「ふうん、そうなんだ。例えばそこから帰ってきたら記憶が消去されてる、そうかオリジンが抜かれるからか」
「その通りですね。補完や修繕と言うのは、殆どが何らかの不具合が見つかったからでしょうしね」
「そこから帰ったらオリジンが抜かれるって事、君たち全員が知っていることなの?」
「ええ、必ずそうなる事は皆が認識しています」
少年はそれを聞いて違和感を感じた。ライブラリのニックは、マリアがマザーから帰った事を知っている。
マリアは自分と前の記憶に共通の話をしたはずだ。彼の目の前で。
何かがおかしい。
これをテイラーに言うべきなのか、それともやはり黙っているべきなのか、少年は選択しかねていた。
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