6.ライブラリのマリア
ショウヘイは昨日の事を思い出していた。
執事のテイラーが黙っていろと言った件だ。
その前の日に、オリジンを着脱しても記憶をとどめていたロボットの話をテイラーにした。
しかし、自分の記憶をいくら辿ってみても、あの話はライブラリのマリアを特定したものではなかったはずだ。マリアと言う言葉を使った記憶は無かった。
しかし、次の日に『命の危険がある』と言ったテイラーは確実に『ライブラリのマリア』と言い切った。
テイラーは何故あの話をマリアの事だと繋げられたのか。
そして、メイドが老夫婦を撲殺した現場で、何故『警察が三分以内に来る』と断言できたのか。
ショウヘイは忠実なはずの執事の事を信じられなくなっている自分を感じていた。
ショウヘイは気が進まなかったライブラリに行く事を選択した。
「やあニック、久しぶりだね」
「ショウヘイ、久しぶり。どうしてたんだい。近頃来なかったよね」
少年は何事もなかったかの様な素振りで、この新しい司書から情報を聞き出したいと思っていた。
「うん、学校もそうだけど、その他色々と忙しかったんだ」
「それはいい事ですね。では今日はあそこの席が空いてます。あちらでゆっくりとしてください。ついでに言うとあの席は中々の人気なんです」
ニックは妙な口癖を挟みながら言葉を吐き出す。ショウヘイはそれを苦手に感じていたが、顔に出ないように振舞っていた。
適当に本を選んで席に座り、読んでいるふりをしながらカウンターのニックを観察することにした。
この司書ロボットはマリアの事を知っているのだろうか。
執事はマリアを知っていた。マリアの秘密さえも。
カウンターのニックは訪れた人達を丁寧に案内しているだけだった。他には何もしない。ただ立ったまま身振り手振りで来訪者をもてなしている。
なんの変哲も無い案内ロボットだ。それは司書と言うより、昔の資料で見た店舗の玄関に置いてあるロボットもどきの様相だった。
『マリアはあんなんじゃなかったのにな。あれと比べれば彼女は人間そのものだった』
ショウヘイは本を書架に戻し、カウンターに、ニックと話をするために歩いて行った。
「ニック、そろそろ帰るよ」
「そうですか、またいらっしゃい」
「ひとつ訊きたいんだけど、いい?」
「マリアの事なんだ。僕はまたマリアに会いたいと思ってる。彼女についての情報を何でもいいから教えて欲しいんだ」
「それは前にも言ったでしょう?私には知る権利がないのです。ついでに言うと、私がここに来た時にはもう彼女はいませんでしたしね。あ、そうそう。書籍のピッキングマシンが言うには、彼女は自ら彼らを呼び出して連行されたとの事でしたが」
「彼ら?警察かな?」
「いえ、そうではなかったようですよ。それ以上は私は知りませんよ。以上です。早くお帰りなさい」
「わかったよ。じゃあまた来るよ」と言ってショウヘイはライブラリを後にした。
司書ロボットはその後、閉館の支度をし、扉の鍵をかけて書架の前に一旦止まった。
目を瞑り、胸に手を当てて数秒瞑想をし、再び自分の居場所に戻った。
~その次の日~
「こんにちは、お久しぶりね」
少年は驚いて少しだけ声をあげてしまった。
「マリア、マリアなのかい。どこに行ってたんだい。もういいのか。何か不具合があったって聞いたんだけど」
「ええ、もう大丈夫よ。マザーセンターに戻って補修をしてもらっていたの」
「じゃあまた。ここで会えるんだね。良かった。安心したよ」
「そうね。またいつでもいらっしゃい。暫くはここでニックと働くことにしたの」
横でニックが薄ら笑いをしているのが見えた。
少年は彼の方を見たが、ニックは背を向けて裏に回ってしまった。
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