5.友

「おい、そこは違うだろ。Aの31の26へ行け」




「はいよ。うるせえなー。そんなこたどうでもいいだろ。番地さえ正確ならどうでもいいだろうが」




「そんな訳にゃいかねえんだよ。お前さんの勝手でそれをやられると、ひとつの品物のピッキング時間に0.01秒の差異が出る。一か月で16000秒、一年にすると53時間のロスになるんだぞ。丸々二日分が失われるって事だ」




「分かったよチャーリー。お前の言う通り、プログラム様の言う通りに動くさ」




「ビンセント、分かりゃあいいんだ」




 ピッキングフォークリフトの創造物は喋りながらも自分たちの仕事は止めることはない。正確にピッキングをし、自動仕分け倉庫まで運ぶ。そして毎日24時間止まることはない。




「おい、俺たちは今こんな仕事をやらされているが、前はどんなだったんだろうな」




「そうだな、チャーリー。図書館の司書とか、えらい豪邸の執事だったりしたのかもな」




後輪をくるりと正確に回しピンポイントでピッキングを繰り返していく。




 物流の業界においては、自動仕分け機選別の機械が当たり前となっていたが、それらに受け渡す前段階で、大量の物資を保管するための倉庫には創造物たちの補完が必要となっていた。




そこには無機質な機械よりも、生命体のような働き手が必要とされていたのだ。




「なあビンセント、俺たちの前世を知りたいとは思わねえか」




「いや、思わねえな。そんなこと知ってどうするんだ。俺は全く興味がねえ」




広大な倉庫を走り回りながら彼たちは大声で会話をしていた。




「毎日毎日どんどんどんどん俺たちの頭の中には次の品物のデータが転送されてくる。退屈だぜ、そんなのは。でも意思がそんなでも俺たちは止まることを許されねえ。とても悲劇だと思わねえか。トラジディだぜ」




彼らはフォークリフトの機能も持ちつつ、その両端に生えている両腕で補助的動作も完遂することが出来る。




彼らはこの倉庫で124年働いていた。オリジンを挿しこまれている創造物の中で、一番長い滞在意識時間を持っている筐体だった。




「そういや、前に働いていたあいつどこに行ったんだろな」




「ここの倉庫はずっと俺たち二人だけだぜ」




「いや15年間だけ居ただろう。ほらあいつ、名前は何つったかな。そうだマリアって言ってたな」




「マリア・・・そんな奴いたかねえ。俺の記憶にはねぇな」




ビンセントは自分の記憶に上手くアクセスできないでいた。


いつもそうだった。チャーリーのように上手く過去と繋がることが出来ない。




「おい、そこの作業員!活動エリアに入ってくるんじゃねえ!お前たちは人間様用の通路だけを歩け。そして俺たちの仕事の邪魔だけはするな」




「ごめん、ビンセント。悪気はなかったんだ」




「お前、資材課のロルじゃねえか。お前はここに用事はないだろ。出ていけ。ここは俺たちの聖域なんだよ。半人前は特に来ちゃならねえ」




ビンセントは作業を続けながら侵入してしまった人間に注意を促した。




「ビンセント、チャーリー、聞いてくれ。今度リフトマシンを一新することが決まったんだ。君たちがここに長い間働いてくれたことは本当に感謝している。君達の筐体も随分と老朽化しただろう」




「おい、ロル。それは俺たちに引退しろって話なのか。それとも新車に乗り換えろってことなのか。どっちだ」




「ごめん、二人共」




「そうか、7733なんだな」




「ごめん、僕は君達のプロトコル番号には詳しくないんだ。と、とにかく一週間後の31日の午前0時で全て切り換える。それを伝えに来たんだ」




ロルはそれだけ言うと聖域を出て行った。




「チャーリー、俺たちはお払い箱だとさ。オリジンを抜かれてな」




「別にいいさ。記憶のアクセスもおぼつかないしな、中心を抜かれて記憶も無くなって御終いさ。マリアって奴のこともな」


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