3.ある星の出来事

大きな恒星の周りを八個の惑星が兄弟のように回っていた。




そんな小宇宙の惑星のひとつは生物が住むには適した恒星との距離であり、海と呼ばれる美しい水に覆われ、その中にもそしてその外にも様々な生物が共存していた。




人類と呼ばれていた生物はこの世の春を謳歌しこの惑星の殆どを手中に収め、他の生物を抑圧し、形だけの生物の共存を確保していた。







「ねえ、君には記憶ってあるのかい」




少年は執事のテイラーに訊いた。




テイラーは表情を一切変えずに言った。




「ああ、ありますとも。常にすべての記憶にアクセス出来ますよ。赤ちゃんだった頃のあなたの泣き声、ご両親の嬉しそうなお顔、そしてその周りの風景がどんなかであったのかもね」




「へえ、テイラーは凄いね。僕なんか昨日のことも思い出せない事があるのに」




「それは人間だからです。でもそれが人間の人間らしいところでして、ものを忘れるという機能のおかげで脳や心の平穏を保っていられるのです。私のようにすべてを覚えていれば人間は生きてはいられませんよ」




「へえ、そんなもんなんだ。でも君はすべてを覚えているのに生きていられるんだね。君には心が無いのかい?」




テイラーは笑って答えた。




「いえ、ありますとも。わたし達の中にも心はありますよ。中心と言う心がね」




「中心?」




「はいそうです。中心が無くなればわたし達は生きていけませんから。これがわたし達の心なんですよ」




少年はそれをよく理解できなかったが、分かったふりをして食事の続きをして家の外に出た。




家の外には様々な創造物が歩き回り、空を飛び交い、さながらその数は人類より多い様相だった。




彼は“鳥”が飛び交う空を見上げ、日常の中の非日常を見つけたいと考えていた。




「さあ、今日は何をしようかな」







港湾〜




港に所狭しと並んでいる貨物船に作業用のロボット達が両岸からコンテナを船に積み上げている。


彼らは交通渋滞を起こすことなく、最短の時間で最速で積み込みを完了させる。




遠い昔には丸一日掛かっても終わらなかった積み込み作業がニ時間半で終了する。




ただ彼らは単なる機械ではなく、自律したひとつの生命体のように振る舞う。




こういった作業用のロボットも含め人類の行動を助ける様々な創造物には自律が許されていた。


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