1-2『決闘』
「おい、ブルート……」
「良いですよね?このカッペはすでに入学手続きをしたんですから。正当な手続きによる決闘の立会人をしてもらいますよ。クローニ先生」
「はあ……まあ、決闘の成立要件は満たしているが……」
「あのー、『決闘』ってなんのことですかね?」
あまりにも急な話なので、さすがに質問をしたくなる。
「ああ、入学にあたってのこの学園に関する説明が終わってなかったな……」
というか、まだ始まってすらいなかったと思う。
分かったのは、入学が決まったことと、急に決闘を持ち掛けられたことぐらいだ。
それと、その話の中で、喧嘩を吹っかけてきた男子学生の名がブルート、目の前のオールバックの男性がクローニという名の、おそらく教師であることは推測できた。
「このプラハ学園では生徒同士が互いに
なるほど。俺は今しがたこの学園の生徒となり、目の前にいた学校関係者のクローニ先生が立会人をやれるから決闘を行うことができるというわけか。
それにしても急な話じゃないか?それとも、都会の学校というものはこんなものなのだろうか。入学といっても事務手続きすらしていないのだが……
「断ることは?」
「もちろんできるが、断った側にペナルティがつく。査定が行われ、マイナス評価を受ける。この学園はクラス分けもないし、テストも原則『加算方式』だよ。そして、学生の優劣はすべてこの持ち点評価査定による評定ポイントによって
この学園が、俺が話に聞いていた学校のイメージとかなりかけ離れたものだということだけわかった。
そして、俺は入学早々、荷物を置く間もなく、この学園の流儀に合わせた決闘を行わなければいけないらしい。
「学年ランク上位者は派閥を形成する権限が与えられる。他にも条件はあるけどね。従って、このブルートの『ヤキソバまんを買ってこい』という一言もあながち無理な要求ではないんだ。派閥に属する者の役割は上位者が決めるからね。ちなみに、決闘はどの方式でも構わないよ!?魔法を行使したものであることと、命を奪うことさえしなければね」
決闘の方法はいろいろあるらしい。
オーソドックスな戦闘から魔法を使って作った造形物の仕上がりの良さを競ったり、魔法の精度や発動の速さを競ったり。
「もちろん、決闘方法は『戦闘方式』に決まっている。いいな?カッペ」
どうやら拒否することはできないらしい。他にどんな方式があるのかわからないが、戦闘以外の決闘方法も認めないようだ。
俺は周囲をぐるりと見回した。
何とまあ、決闘におあつらえ向きの庭というか、直径50mほどの広さの石畳を花壇が円形に囲んでいる。
よく見ると、その花壇は結界魔法の魔道具によって防護されているではないか。
決闘の方がテストよりも重きを置かれている学園なのだから、きっと他にも色んな場所に闘技場があるのだろう。
「わかった。条件は?それと勝者の獲得する権利は?」
「勝負条件は魔法の行使による戦闘。判定はどちらかが気絶するか、魔力が尽きるか、あるいは降参というかだ。負けた者はこの学園の生徒でいる間、勝った者になんでもつき従う。どうだ?シンプルでいいだろう?」
「わかった……」
「本当に良いのだな?」
立会人となったクローニ先生が念押しをしてくる。
「ええ。構いませんよ」
「……そうか……では、第1学年教務主任のクローニの名の下にこれを正式な『決闘』と認める。決闘方法は戦闘方式。対戦者は『
先生が手に持った紹介状を読み直す。
そう言えば、自己紹介もしていなかった。
「ノーウェです。ノーウェ=ホーム」
「ホーム?……ああ、いや、すまないね。それでは、これより『水豪』のブルートと『紫魔導師』のノーウェの決闘を執り行う、はじめっ!!」
クローニ先生が手を挙げてその場から数歩後ろに飛んだ。
決闘の合図だ。
「おい、カッペ。お前は世間知らずだから良いことを教えてやる」
「良いこと?」
「ああ。この学園は魔法使いであれば誰でも受け入れる。だが、魔法使いの称号には歴然とした格(ランク)ってもんがあるんだよ」
「格?」
なるほど。それで紹介状を読んで俺の称号を目にしたクローニ先生は渋い顔をしたのか。
「そうだ。格(ランク)にも色々あるが、まず初めにふるいにかけられるのは『色付き』の称号持ち……つまりお前のことだよっ!」
そういうと、ブルートの両手から水の渦が沸き起こる。
2つの渦はブルートの頭上に舞い上がり絡みつくように合流して1本のさらに大きな渦となってうねりを作っている。その様子はまるで生きているようで、水の大蛇か竜さながらであった。
「『色付き』……お前のような原初の魔法使いにはこんなトガったことはできないだろう?原初の魔法はあくまで魔法使いの基礎。俺のように格上の存在にとっては応用する前のスタートラインに過ぎない。スタートラインから動けない者とそこからスタートして伸びる者、どちらが格上かはガキでも分かる理屈だよな?」
そういうと、ブルートの頭上で竜となったそれは、大きく口を開け、水のブレスを吐いてきた。
「『ハイストーン』」
俺は石魔法の『ストーン』の中威力の魔法を唱えた。
悔しいが、ブルートの言うことは当たっている。
俺が使える属性魔法は風水火土のいわゆる4大元素の魔法(黒魔法)の中威力(ハイ級)程度のものと、聖魔法(白魔法)の同じく中威力(ハイ級)程度のものだけ。ハイ級以上の威力の魔法もなければ、そこから、各属性の魔法を発展させ、彼の言うようにトガらせることなどできない。
形状を変えたり、調節したりする程度はできるけどな。
魔法をトガらせるということは、つまり、その用途に応じて最大限の効果を発揮するように応用するということだ。ブルートの魔法は、ただのグラン級(上級)の水魔法ではなく、おそらくその威力、攻撃力に最大限特化させたものなのだろう。
その証拠に、俺の放ったストーンは足止めにもならず、水のブレスに飲み込まれて砕かれたので、俺は追加で『ハイウインド』を放つ。
俺の放った『ハイウインド』も水のブレスをわずかに押し返しはしたものの、すぐに勢いを失ってしまう。やむなく、俺は3つ目の中級魔法『ハイファイア』を放った。属性的にだいぶ分が悪い。
案の定、火はあっという間に消えたので、さらに4つ目の『ハイウォーター』を唱える。
「へえ、ハイ級とはいえ、4連弾とは、なかなか器用な奴じゃねえか。だが、それが俺とお前の絶望的な差ってやつだよ。そろそろ終わらせるぜ」
魔法を4つ行使して、ようやくブレスを飛散させることができたが、それを観察するように眺めていたブルートが今度はブレスではなく、水竜そのものを放ってきた。
ゴォォッ
空中で泳ぐように回転し、こちらに進んでくる水竜。
勢いからして先ほどのブレスとは比較にならない高威力の水魔法が、うねりを上げてこちらに押し寄せてくる。
「一番有効だったのは、風かな……」
「はっはっは、もう感想戦でもしているのか?潔いな、カッペ」
「いや、感想じゃなく、考察だよ。『ウインド-シェル』」
俺は目の前に防御結界を張る。
緑色に輝いた魔法でできた巨大な盾が、水魔法によって生み出された竜の突進攻撃を受け止める。
水竜は勢いそのままに魔法の盾に向かって突進を続けるが、盾の硬さに勝てず、まず頭を飛散させ次に首、胴体と順番に削り取られていった。
「な、なんだと……!?」
「ほぉ……」
あっけにとられるブルートと再び
どうやら、少しは彼らのことを見返せたようだ。
「それで?お前の言うトガった水魔法はここまでかい?」
「ふ、ふざけんなよ。そこまでナメられちゃしょうがねえ」
ブルートは再び両手に渦を作る。どうやら、彼の魔法の発動はすべて両手からみたいだな。
渦は先ほどのようにブルートの頭上に上がるが、今度はそれぞれ別の動きを取る。
左手は何かの鳥のような形に、右手は獰猛そうな肉食獣の姿となり、それぞれ上空と地上に
「分かるか?格上は魔法の同時発動、同時操作もできるんだよ。これで終わりだ」
「同時発動ね」
俺は前面に張っていた『ウインド-シェル』を引き伸ばすようにして、俺の全身を包むように張り直した。
「なっ……!」
前面に張った時に比べ、全身をカバーできる反面、その防御力は膜が薄くなった分だけ弱まる。地上から襲い掛かった水の獣と、俺の頭の上を狙った水の鳥は勢いよくぶつかって飛散したが、同時に俺の張った魔法の結界盾も消えてしまった。
「これも1つの応用ってことで良いかな?」
そう言って俺は次の呪文を唱える。
俺の手から水の渦が巻き起こり、竜の形となる。
「は?」
俺が指示を出すと、ブルートの作ったものよりもやや細身で迫力に欠ける水竜は、ブルートに向かって飛んで行った。
「くっ!」
ブルートは両手に渦を発現させて水竜の攻撃を無力化する。
やはり彼の放ったものよりも威力は数段劣るようだ。
「ははっ、驚かせやがって。だが、魔法使いの序列には魔法自体の威力や難度以外にもう1つあるんだよ。それは魔法使い本人が持つ『魔力』と『魔力量』の差だ」
2つじゃないか?と思ったが、とりあえず黙っておく。
魔力と魔力量は似て非なるものだ。
魔力は魔法を放つ際にその威力を左右する力のことで、例えば同じ初級の『ファイア』という火魔法も使用者の発動時の魔力によってその威力が変わる。
魔力量は、発動者が保有する魔力の総量のことで、威力というよりも魔力の消費に関わる。
同じ威力であれば、『ファイア』を1日に10回しか使えない者より100回使える者の方が優秀といえる。
この2つは当然ながら他の者よりも高いに越したことはない。
「まあ『色付き』にしてはよくやった方だがこれで決まったな。魔力量も魔力も俺の方が高く、お前の魔法を俺が防げる以上、俺がこの勝負に負けることはない」
そう言って、ブルートは再び水竜を作り出す。
観察する限り、両手にそれぞれ獣と鳥を作り出すよりもこちらの魔法の方が、彼にとって幾分燃費がいい魔法みたいだ。言動は粗暴な感じがするが、そういう面で考えなしではない所が彼もれっきとした魔法使いなんだな、と思わずにやけてしまう。
「な、何がおかしいっ!!」
水竜が荒々しく襲い掛かる
俺も再び『ウインド-シェル』を張る。
「ふんっ、往生際が悪いな。このままだとジリ貧なだけだとわかっているのだろう?」
「そうだね。だから次の一手さ」
「何?」
「『メージスタッフ』」
俺は『シェル』の結界と俺との間に1本の魔法の杖を
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