第6話「母の教え」



休日、久しぶりに実家に戻ってきた。最近の私の様子を心配した母に呼ばれたのだ。


「いらっしゃい。ちょうどお茶入れたところ」


リビングには、懐かしい緑茶の香りが漂っていた。テーブルの上には、見覚えのある青い表紙のノートが置かれている。


「あれ、これって…」


「母さんの家計簿よ。あなたが小さい頃から、ずっとつけてるの」


手に取ってみると、きれいな文字で細かな記録が残されていた。食費、光熱費、教育費…。家族の生活が、数字で紡がれている。


「ねえ、母さんも若い頃は、結構無駄遣いしてたの知ってる?」


「え? 嘘みたい」


いつも堅実な母からは想像もできない話だった。


「これ見て」


差し出されたのは、20年以上前の家計簿のページ。そこには、見覚えのある項目が並んでいた。


```

商品名:トレンドメイクセット

価格:12,800円

用途:メイク、特別な日

購入動機:友人と一緒に

反省点:衝動買い、使用頻度低

```


「母さんも…こんな記録を?」


「そうよ。今のあなたとそっくりでしょ?」


母は優しく微笑んで、古いレシートの束を取り出した。


「これはね、私の失敗コレクション。若い頃の衝動買いの記録。これを見るたびに、自分の成長を実感するの」


一枚一枚のレシートには、母の反省コメントが添えられていた。使わずに終わった化粧品、着なかった服、一時の気分で買ったアクセサリー。


「でもね、大切なのは、失敗を責めることじゃないの」


母は、新しい家計簿を私の前に置いた。


「これ、あなたに」


真新しい家計簿には、母の文字で「美咲の賢い選択日記」と書かれていた。


「続けることが大事。それと、時々立ち止まって考えること」


スマートフォンを取り出すと、「目利き」アプリが静かに光っている。今度は家計簿とアプリ、両方の視点で記録をつけてみよう。


「あ、そうそう。これも見て」


母が指さした家計簿のページには、こんな記録があった。


```

商品名:基礎化粧品セット

価格:5,800円

効果:継続使用3年

特性:肌に合う、無駄なし

教訓:本当に必要なものには惜しまない

```


「この選択は、20年経った今でも間違ってなかったわ」


家計簿を眺めながら、母の言葉が心に染みた。お金の使い方は、その人の人生の選択そのもの。コツコツと記録を続けることで、自分の選択の癖も、成長も、全部見えてくる。


帰り際、母がそっと耳打ちした。


「たまには失敗してもいいのよ。大切なのは、そこから学ぶこと」


実家を後にする私の手には、新しい家計簿と、母からの知恵が握られていた。

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私の「目利き」レッスン ―20代からはじめる賢い買い物―SNS時代の女子大生が見つけた、本当に価値のある選択 ソコニ @mi33x

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