第2話「積みすぎた背中」



日曜日の朝、私は部屋の掃除を始めた。といっても、散らかった洋服を片付ける程度のつもりだった。


机の上には、まだ開封していない美容液が転がっている。先月、セール中だからと思わず買ってしまったもの。その隣には、友人と「お揃いで使おう!」と購入したマスカラ。結局一度も使っていない。


「これも、確か…」


引き出しを開けると、次々と出てくる未使用の化粧品たち。思わず、それぞれの商品情報を確認してしまう。


```

商品名:潤い実感美容液

価格:4,200円

効果:保湿力+10、浸透力+8

特性:セール品、バズり商品

相性:乾燥肌向き

```


「あのとき、すごくいい買い物だと思ったのに…」


スマートフォンに届いた通知音で我に返る。クレジットカードの支払い日が近いことを知らせるメッセージだった。画面をスライドすると、今月の利用額が表示される。


「えっ…」


思わず二度見してしまった。先月より、さらに金額が跳ね上がっている。限定ファンデーションに、セールの美容液、それに友人と買ったコスメ。どれも「いつか使うから」と正当化してきた買い物の積み重ね。


「美咲?」


突然鳴り響く着信音。母からだった。


「どうしたの? 珍しいね」


「クレジットカードの明細が家に届いたんだけど…」


実家の住所宛てに送られてくる明細書。カード作成時の住所を変更していなかったことをすっかり忘れていた。


「最近、使いすぎじゃない?」


母の声には心配が滲んでいた。


「大丈夫だよ。バイトも順調だし…」


言いながら、部屋を見渡す。積み重なった未使用品たち。どれも「欲しい!」と思った瞬間は確かにあった。でも、今の私には、それが本当に必要だったのか判断できない。


「そう…。でも、無理はしないでね」


電話を切った後、私は床に座り込んでしまった。財布の中の領収書を広げてみる。ここ一ヶ月の支出を計算し始めたが、途中で怖くなってやめた。


「これじゃマズイよね…」


呟きながら、スマートフォンを手に取る。SNSには相変わらず新商品の情報が流れ続けている。その時、画面が不意にちらついた。まるで、私に何かを訴えかけるように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る