第3話

ちょっと前から、彼に対して違和感は感じてた。起床を重ねる度に酷くなる頭痛と無気力感。

疲れが取れていないのかな?と思ってたけどつい先日、彼が誰かと電話しているのを聞いてしまった。

「…そう、だんだん効かなくなってきてる。しかも日に日に記憶障害が進んでる。もう薬は無理かもしれない。」

薬?彼は一体なんの話しをしているのだろう。

「ま、だんだんおかしくなってくゆあもかわいいんだけどね。」

私の話?わたし、彼に薬いれられてたの?

「……」

彼にバレないように、私はそっと別の部屋に移動した。


深夜2時。必要最低限の荷物を持って、家を出た。

彼はベッドでぐっすり寝ている。私が居なくなったことなんて、朝起きるまで気づくはずがないくらいに。

薬を持っているのが自分だけだと思わないでほしい。私は彼が居なきゃなにも出来ない弱い女じゃないってことを、思い知ってほしい。

昼に盗み聞きした彼の電話でだいぶ頭がスッキリした。私はクズ男に恋する可哀想でかわいい女の子。

だから、私に堕ちちゃった男なんて要らない。


子供の頃、父親に溺愛されていた。私が成長するに連れて、その溺愛はだんだんといやらしいものになっていった。性行為が嫌いにならなかったのは、きっとそれ自体は嫌じゃなかったんだと思う。その最中に向けられる父親からの好意だけが、それだけが、嫌で嫌で仕方がなかった。

ホストをしている時の彼が好きだった。

私に向けられているのか分からない好意。もし向けられているとしても、仕事柄女の子と深く関わることが多い。彼氏がホストなんて、絶対に惨めで寂しいきもちになるに決まってる。

私はそれが好きだった。その、心が締め付けられて苦しい感じが。

誰にも理解されたことないから、もう誰にも打ち明けてない。

執着も束縛も、愛故のものは全部いらない。


私は彼の前から居なくなるけど、追ってきたら殺す。

私を愛した奴は全員殺す。

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ペアリングピアス やおしろ @yaoshiro

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