第2話

最近、彼女の様子が変だ。

今まで、ずっと喋りたくもない他の女を相手にしてまでホストやって、彼女のために金を貯めて。2人でずっと一緒に暮らせるように。

ようやくそのレベルまで金が貯まったから、彼女には仕事を辞めてもらって、朝起きてから夜寝て、寝てる間もずっとずっと一緒にいられる、夢の生活が始まったのに。

俺が彼女に愛を囁く度に、彼女の瞳には今までとは違うものが浮かんでいた。

「愛してるよ。」

「結婚しようね。」

「俺が養ってあげるから。」

「俺が全部やるから、何もしなくていいよ。」

「俺から離れないでね。ずっと一緒だよ。」

全部全部、彼女に向けた俺の全部なのに。


なんてね。

俺だって、本当はこんなことしたくなかったけど仕方がない。

別に彼女が都合のいい存在だからじゃない。好きなのも、愛してるのも結婚したいのも本当。

だって俺にはそう仕組まれてるから。俺にはそれしかないから。

彼女もこの道から外れてはいけないから。仕方ない。

俺は謎の液体が入った注射器を、寝ている彼女の腕に刺した。痛みで寝ている彼女の顔が歪んだ。

「痛いよね。でも悪いのは君だよ。」

俺は注射器を処理してから彼女の隣で眠りについた。


朝、隣に彼女がいない。どこに行った、逃げたのかと焦りと不安と疑いを募らせていると、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。

これはいつも彼女が作ってくれていた、朝ごはんの味噌汁の匂い。

逃げた訳じゃないことに安心すると共に、昨日投薬したものがちゃんと効いているようで再度安心した。

「おはよ。朝ごはん作ってくれてたの?」

「おはよう。うん。朝ごはん作ったから、一緒に食べよう?」

「うん。俺お皿出すね。」

彼女が作った朝ごはんを一緒に食べる。

ホストをやっていた時はだいぶ荒れていて、彼女にもずいぶん酷い態度をとった記憶がある。

別に申し訳ないとは思わない。痛み分けってやつ?だからきっと彼女も喜んでる。他でもない、俺が傷をつけたんだから。

タカラモノだろ?

「私は今日お仕事だけど、れんくんはおやすみなの?」

ああ、ここまで記憶に障害が出るとは思っていなかったな。

可哀想で可愛い。俺の彼女。

「何言ってるのゆあ。昨日、今日は休みだって言ってたでしょ?」

「え?そうだったっけ。」

「そうだよ。今日は俺もゆあも休み。」

俺が休みって言ったら信じちゃう、ちょろいゆあが可愛くて仕方ない。


なのに、ゆあが居なくなった。

キッチンにもリビングにも風呂にもトイレにもクローゼットにも家のどこを探してもゆあの姿は見つからなかった。

そしてスマホも一緒に無い。


プルルルルルルル


「クソ」

電話に出ないのは、単に気づいていないからか、わざと無視しているからなのか。

GPSは入れてない。とりあえずは帰りを待ってみるかどうするべきか…

いや、

「待ってなんてられない。」

俺は必要なものを持って家を飛び出した。

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