ペアリングピアス
やおしろ
第1話
「愛してるよ」
私にとって、その言葉がどれだけ重いか分かってる?
私にとって、どれだけ貴方が必要か分かる?
私に傷をつけて、深く深く。貴方も私も、一生忘れられないような傷。
これでやっと、私と貴方はしあわせ。
「ただいま。」
「おかえり。」
時刻は午前9時。貴方が帰ってくる。それを笑顔で出迎える私。
朝帰りだけど、これから貴方は寝ちゃうけど、一緒にいられるだけでわたしは幸せ。
「ご飯作ったんだけど、たべる?」
「あー、今はお腹空いてないから後で食べるわ。」
「わかった」
外で何か食べてきたのかもしれない。でも後で食べるって言ってくれたから、大丈夫。
彼はホストだから、夜にお仕事をして朝帰ってくる。きっとお客さんとは寝ることもあるし連絡もとるし愛も囁くだろうけど、朝は絶対、私のところに帰ってくる。
「じゃ、俺寝るから。」
「うん。おやすみ。」
今日はお仕事でトラブルはなかったみたい。
彼はお仕事でトラブルがあって、ストレスが溜まると私でストレスを発散する。
それは性行為だったり、暴力だったり。いろいろ。
クズ男?
ちがうよ、彼は優しいもの。
ケーキを買ってきてくれることもあるし、一緒に寝てくれるときもあるし、結婚しようって言ってくれる。
こんな私に、愛してるって言ってくれる。
「わたしもお仕事しなきゃ。」
着替えて、メイクして、髪も可愛くセットして。
私はコンカフェで働いていて、お店の中でもそこそこ人気なスタッフ。
お客さんは私とチェキを撮るためにたくさんお金を使ってくれる。
彼も私も、お金は結構あるけど、彼がいつホストを辞めても大丈夫な様にもっともっとお金を貯めて、一生2人で暮らしていけるように。
チリンチリン
「おかえりなさいませ〜♡………え?」
出入口には今朝見た彼が、立っていた。
「あー、お前、仕事辞めてくんね?」
え?どうして?私は2人のためにお金を稼いでるのに、私はもう要らないの?
「ど、うして?私、なにかしちゃった?」
「いや、何かしたとかじゃなくて。普通に。」
普通にって何?と、放心状態の私を置いて、彼は慌てて出てきた店長とお話をしている。
「じゃ、そういうことで、俺ら帰るんで。」
何でかわかんないけど、私は今日で無職になったらしい。
無職になったのが2日前。
最近頭の中がぐるぐるしてておかしい。
でも、わたしがおかしくなればなるほど、彼の眼差しと口調が愛を帯びていった。
「愛してるよ。」
「結婚しようね。」
「俺が養ってあげるから。」
「俺が全部やるから、何もしなくていいよ。」
「俺から離れないでね。ずっと一緒だよ。」
嬉しいな。そう思う反面、なにか大事なことを忘れているようで、頭のどこかで何かが引っかかっていた。
愛しいものを見るような目で見られる程に、彼に対する疑いの気持ちが湧いてくるようになった。もしかしたら、私の貯金目当て?めんどうな女よけ?
「ご飯できたよ。一緒に食べよ?」
「う、うん……ありがとう。」
いつの日か、愛が疑いに変わり、疑いが恐怖に変わっていった。
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