第1話 なっくん魔法使いになれない日々

槇志まきし、今日から僕は魔法使いになるっ」


 拳を握りしめて宣言する馬鹿な友人に槇志は親切に告げた。


「なに言ってんだ夏生なつお? お前は馬鹿なのか? いや、馬鹿だ」


 だが、夏生は槇志の言葉を無視するかのように手にしたう○い棒を掲げる。


「魔法の杖はこれ!」

「いや、待て」

「え? う○い棒にしか見えない?」


 見えないも何もそのものだが、夏生は片方の手を腰に当てて自慢げに解説する。


「ふふんっ、この杖はね……さっき学校に来る途中で拾ったんだ」

「いや、いろいろダメだろ」

「陽の光を浴びて銀の包み紙がキラキラしていたんだ」

「それがどうした?」

「きっとこれ、魔法の杖だよ。僕の脳内マザーも、もしかしたらそうねって言ってくれたからね」

「いや、それについては現実のマザーに聞いてみろ」


 当然のツッコミを入れた槇志だが、当然ながら馬鹿な友人には効果がない。


「ふふっ、魔法使いになりたい夢、叶っちゃった」


 満面の笑顔で言うと、夏生は手にしたう○いにかじりついた。


「杖食うなよ……」

「あっ……」


 こうして夏生の夢は終わった。


 だが、これから何度か夏生は唐突にこの手のことを口にするようになる。

 彼が「みっくんの魔法使いの日々」という絵本の熱烈なファンであることを槇志が知ったのは、かなり後になってからのことだった。



※どうぞ「みっくんの魔法使いの日々」魔法使い1日目と比較してみて下さい。

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