【西郷隆盛】寝耳に水なんですけど

「西郷将軍! 大変なことになりました!」



 真夜中、深い眠りに包まれた西郷隆盛は、突然、激しく揺さぶられる感覚に目を覚ました。身体がだるく、もう少しだけ寝ていたいという気持ちが込み上げてきたが、声が再び響いた。



「西郷将軍! 大変です!」



 その声は、急を要する何かが起こったことを伝えていた。西郷は無意識に体を起こし、反射的に寝巻きを引きずりながら枕を放り投げた。布団に沈み込むことを許す余裕は、ここにはなかった。



 むっくりと起き上がると、目の前には敬礼をした部下が立っていた。真夜中の非常事態で、こうした形式的な敬礼が許される状況ではないと思いつつ、しかし心の中で冷静さを取り戻す。普段なら一切許さないが、この時ばかりは彼の訓練された忠誠心に感謝せざるを得なかった。



「そんなに慌てて、何事だ?」



 西郷の声には、急を告げる者に対する優しさがこもっていた。だが、その心の中には、すでに冷徹な思考が巡り始めていた。何事かが起こる前に、頭を整理する。そのためには、まず相手の話をよく聞かなければならない。



「それが、カナダが裏切りました! カナダ軍が南下して、こちらに向かっています!」



 部下の言葉に、思わず西郷は眉をひそめた。カナダが裏切ったという事実は、彼にとって非常に重大な知らせだった。想定していた範囲であるとはいえ、現実となるとその影響は計り知れない。



 すぐに思い浮かべたのは、今自分がいるカリフォルニアの状況だった。もしカナダが本当に侵攻を始めれば、周囲のアメリカやメキシコもこの機に乗じて侵略してくる可能性が高い。その場合、陸軍は包囲され、全滅の危険すらもある。だが、そんな事態を想像する暇もなく、西郷は冷静に自分の次の一手を考えていた。



「カナダが裏切ったか……だが、焦るな。対処法はある」



 西郷の頭の中では、すでに作戦が組み立てられていた。慌てることなく、すぐにその作戦を部下に伝える。「伊藤首相が立案した作戦があるだろう? 国境にはダイナマイトを埋めたはずだ。それを爆発させて足止めし、さらに大砲で反撃だ。足止めのための有刺鉄線も準備されている。問題はない」と冷静に指示を出す。



「そうでした! すぐに作戦を実行します!」



 部下は顔を上げ、力強く答えると、すぐに退室していった。西郷はその背を見送ると、再び冷静に次の行動を思案し始める。事態の収束を待つ間、彼は自分の手の内にある計画に自信を深めていった。



 そして、カナダとの戦争は半日も経たないうちに終結した。結果は、大日本帝国の圧倒的勝利だった。すぐにカナダは帝国の領土となり、その支配下に組み込まれることとなった。この迅速な勝利は、西郷にとっても予想以上の成果であったが、同時に一抹の寂しさを覚えていた。



 彼の役割は、戦闘の始まりと終わりを迅速に終わらせることに過ぎなかった。伊藤博文の作戦がなければ、この勝利は得られなかっただろう。自身の存在が次第に薄れていくのではないかという不安が胸に広がっていった。



 だが、西郷はすぐにその考えを振り払った。自分の任務は、単に戦場で活躍することだけではない。むしろ、まだ多くの戦力を発揮できる方法があることを思い出した。



「ダイナマイトか……待てよ、あれを別の用途にも使えるのではないか?」



 西郷はふとひらめいた。戦闘で活躍するだけが軍人の役目ではない。彼はすぐに部下を呼び、伊藤博文宛に電報を打つ決意を固めた。「今度こそ、軍人として新たな活躍の場を見つけてみせる」と心に誓いながら。

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