【伊藤博文】すべてを解決するものは
アメリカの一部を領土にしてから数日、大日本帝国の都は熱狂に包まれていた。街中では歓声が響き、帝国の旗が風に揺れていた。学校では児童たちが新たに手に入れた領土の名を繰り返し口にし、新聞では大々的に報じられていた。
しかし、その背後には、メキシコとの領土折半に対する不満の声も高まっていた。国民の一部は、かつて自らが支配していた土地を他国と分け合うことに納得できず、連日、デモ行進が行われた。そのデモ隊は、いささか過激な言葉で政府を非難し、領土拡大の速度と方法に対して不満を募らせていた。
伊藤博文は、こうした騒動を耳にしても冷静だった。彼は自分に言い聞かせるように思った。「戦争を回避しただけでも十分だ。メキシコとの直接対決は避けた。国民の不満も、結果が出れば収まるだろう」。
だが、伊藤は心の奥で、少しだけ不安を感じていた。今は表に出さないが、彼の冷静さを保つためには、さらに成果を挙げなければならなかった。
そんな時、ノックの音が扉を鳴らした。「どうぞ」と答えると、大久保利通が姿を現した。普段は控えめな大久保だが、今日は何かが違った。顔には明らかな自信が溢れており、その胸はいつになく張られていた。その姿からは、何か素晴らしい報告がある予感がしていた。
「それで、今日は何の用だ? いい報告なんだろう?」伊藤は半分冗談のつもりで言う。
「ええ、もちろんですとも。結論から申し上げます。アメリカから奪い取ったアイダホ州で金鉱が見つかりました!」大久保の言葉に、伊藤博文は目を丸くした。金鉱? その言葉が持つ意味の重大さに、一瞬、時間が止まったような気がした。
「金鉱!? すでにアラスカに金鉱が見つかっているのに、どうしてまた?」伊藤は驚きながら尋ねた。
「正確には『アメリカが採掘していた金鉱を取り上げた』ですが」と、大久保は少しだけ言葉を和らげる。
「そんな細かいことは気にするな。それで、アラスカの金鉱と比べて、どれくらいの規模だ?」伊藤は早くもその影響を考え始めていた。金鉱は、戦費を補うだけでなく、帝国の経済を劇的に変える可能性を秘めていた。
「さすがに、すぐには分かりません。しかし、アメリカで産出される金の20%はあるとのことです」と大久保は続けた。
その数字に、伊藤博文は思わず前のめりになった。20%と言えば、十分に膨大な金額であり、大日本帝国にとっては一大事となるだろう。しかも、これをアメリカから奪ったという事実は、相手国にとっても痛手となるはずだ。アメリカの経済がどれほど大きいとはいえ、金の流出は痛手に違いない。
「これは戦争時の出費を補って余りあるだろう?」伊藤はその未来を見据えた。
「もちろんです。それに、欧米は先の不況で混乱しております。つまり、我が国の一人勝ちです」と大久保は続け、眉をひそめることなく言った。
伊藤博文はその言葉を聞いて、少しだけ安堵の息をついた。確かに、欧米諸国は最近の不況や金融混乱の影響を受けている。その隙間を狙って、日本が経済的に飛躍するチャンスだ。だが、他国の混乱を単純に喜べるわけではない。むしろ、日本がその隙間を突くべきだ。
「よし、下がって大丈夫だ。詳細が分かったら報告するように」伊藤は冷静に告げた。
大久保利通は恭しく礼をし、意気揚々と部屋を出て行った。その後ろ姿に、伊藤はふと、彼がこれまで抱えてきた苦悩と、今日のような報告をした時の満足感を重ね合わせていた。
さて、どうするか。経済を発展させるか、それとも軍備を拡大するか。伊藤博文は一瞬、どちらを優先すべきか迷ったが、すぐに結論に至った。「経済を優先するべきだ」。現在、国民の生活は安定していなければならない。軍備の拡大も重要だが、国民が潤い、安定を感じることで、より大きな支持を得ることができるだろう。国の強弱は、国民の心と経済力に深く関わっている。
そのためには、まず経済を底上げする必要がある。伊藤博文は側近を呼ぶと、即座に命じた。「群馬県の富岡市に製糸工場を作るように」。
この一手が、どれほどの効果を生むか。伊藤博文は心の中で期待を抱きながら、次の行動に向けて動き出した。
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