【伊藤博文】嬉しい誤算で狂喜乱舞する
伊藤博文は机に座り、窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、手に取った電報をもう一度読み返していた。西郷隆盛からの知らせには満足していた。アメリカの西海岸を手に入れた。これだけでも大きな勝利だというのに、その上、アメリカの領土のうち西側の3分の1を掌握したという知らせが届いたのだ。まさに嬉しい誤算。これで、アメリカをも圧倒し、我が国の力を証明したことになる。
それでも、伊藤はその手を少し震わせながらも、冷静に次の一手を考えていた。まだ問題は残っている。アメリカを手中に収めた今、メキシコとの関係が重要になってきていた。メキシコとの領土問題が片付かない限り、完全に安泰とはいえないのだ。
伊藤は電報を机に置き、立ち上がった。その歩みには決して急ぎ足は見られなかったが、その瞳には鋭い光が宿っていた。政局の手綱を握ることができたとき、その先に待っている戦いの厳しさを覚悟しているからこその冷静さだ。
「首相、メキシコからの使者を応接室に案内しました」と、部下が声をかけてきた。
「よし、すぐに行く」伊藤は深いため息をつき、顔にわずかな笑みを浮かべた。ここで踏みとどまらねばならない。西郷隆盛の活躍を無駄にしないためにも、強気でいかねば。
応接室に足を踏み入れると、すぐにメキシコの使者が話を切り出した。あまりにも堂々とした態度で、伊藤博文はその態度に少し驚きながらも、無表情を保ち続けた。
「今回得た土地の配分ですが、北はカリフォルニアまでいただきたい」メキシコ側の発言に、伊藤の心に一瞬、冷たい風が吹き抜けた。カリフォルニアか。その土地は、こちらの陸軍が血を流して手に入れたばかりだ。あんな土地を譲るわけにはいかない。
「カリフォルニア!?」伊藤は冷徹に言った。
「あそこは我が軍が落としたばかりだ。それに、サンフランシスコがこちら側でなければ、大陸横断鉄道の利便性が成り立たない。そんなことはできない」伊藤の声には、微塵の妥協も含まれていなかった。
「それは分かっている。だが、あそこはもともとメキシコの領土だった。アメリカとの戦争に負けるまで、メキシコのものだったのだ」メキシコ側が食い下がった。戦争の余韻が残る中で、交渉はますます難航していった。
伊藤は自分の席に腰掛け、少しの間黙って考え込んだ。カリフォルニアを譲るわけにはいかない。しかし、メキシコ側の焦りも感じられる。この交渉を長引かせてはいけない。
「それはない」伊藤はきっぱりと答えた。「アメリカとの戦争を経て得た土地だ。簡単に譲れるものではない」
メキシコの使者が顔を曇らせるのが見て取れた。
「カリフォルニアには金鉱があります。譲れません。」と再度メキシコ側が言った。
「金鉱? どうやら、あなた方の情報は古いようですね。」伊藤は冷たく言い放った。「あの金鉱はもうアメリカが採掘しきっています。今ではもう、金はほとんど取れない」事実を突きつけると、メキシコ側はしばらく沈黙した後、がっかりとした様子で頭を下げた。
「なんと! そうでしたか……。分かりました。サンフランシスコまでで手を打ちましょう。代わりに、大陸横断鉄道はメキシコ側にも使用権を認めてください」
伊藤はしばらく黙った。メキシコに鉄道使用権を認めることはリスクがある。しかし、今はそれ以上に事態を悪化させることの方が問題だ。少しの間、考えた末に、彼は決断した。
「それはダメだ」伊藤の声は、冷徹でありながら、確固たる意思を込めていた。「今回得た領土の半分がそちらのものになったのです。鉄道まで譲歩するわけにはいきません」
メキシコ側の使者が苦笑いを浮かべて言った。「そうですか……。帰国したら、私は非難されるでしょうね。無能な使者として」その言葉に、伊藤は少し眉をひそめたが、それ以上の反応は示さなかった。
「そんなことはない」伊藤は淡々と答えた。「領土の半分を得たのですから、十分な成果を上げたと言えるでしょう」彼は心の中で、この交渉の結果を冷静に受け止めていた。
領土の半分をメキシコに譲ることは一見、痛手のように思えたが、伊藤には冷静な計算があった。今後、再びメキシコと戦争をして、その時には完全に勝ち取ればよいのだ。その時のために、準備を怠るわけにはいかない。
伊藤博文は窓の外の遠くの景色を再び見つめながら、内心で次の戦いに向けての構想を練っていた。戦争と和平は裏表のようなものだ。そして、どちらの道を選んでも、勝利が待っていることを確信していた。
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