【伊藤博文】アラスカ、富をもたらす
アラスカ購入から数ヶ月が経過し、大日本帝国の政権は予想以上に困難な状況に直面していた。国内外のメディアは、こぞってこの大胆な決断を批判し、アラスカ購入の誤りを指摘する記事を並べ立てていた。
その冷徹な論調は、政府の信頼を揺るがすものだった。アラスカという地名に誰もが抱いていたイメージ、それは荒涼とした氷雪の世界、無人の荒野、果てしない寒さ。まさに辺境の地であり、資源も乏しいとされ、何もかもが不安材料として語られていた。
「一体、どうしてこんな土地を買う必要があったのか」
街を歩く人々の間でも、伊藤博文の耳に入る声はほとんどが非難の声だった。批判が日に日に大きくなり、政府の姿勢に対する疑念も膨れ上がっていった。アラスカは大日本帝国にとって、これまでにない新たな領土であり、かつてない挑戦を意味していた。多くの民衆にとって、その遠く離れた土地が帝国に何をもたらすのか、見当もつかない。誰もが不安を感じ、暗い未来を予感していた。
伊藤博文もその事態を重く受け止めていた。彼は長年の政治経験を持ちながらも、この購入に対して抱える不安は少なくなかった。しかし、彼は冷静を保ちながら、次の行動を決めなければならないと自分に言い聞かせていた。天皇陛下の意向を最優先にすることが、国家の安定に繋がると信じていた。
その日、伊藤博文は朝からの緊張感を感じながら、新聞社に向けてある指示を出した。
「アラスカ購入は、天皇陛下の強い意向によるものだということを報じ、批判的な論調に反論を示してほしい」
その指示は、どこか自信に満ちたものだった。彼は心の中で、事態が少しでも鎮静化することを願っていた。天皇の意向が国民に理解されれば、批判の声も収束すると信じていた。
だが、その時、予期しない知らせが伊藤博文を襲った。部屋の扉が勢いよく開かれ、息を切らした側近が慌てて飛び込んできた。その表情には明らかに驚きと興奮が見て取れた。
「首相、アラスカで金鉱と油田が発見されました! 現在、調査が急ピッチで進められているとのことです!」
その言葉を耳にした瞬間、伊藤博文はしばしその場で言葉を失った。金鉱と油田が発見された? それもアラスカで? 何度も自分の耳を疑った。彼はまさに信じられない思いを抱きながら、その情報を消化しようとした。しかし次第に、胸の中に湧き上がったのは、計り知れない希望だった。
金鉱と油田の発見は、アラスカ購入の意義を一変させる可能性を秘めていた。金鉱の発見は、帝国の財政を急速に回復させ、アラスカ購入のために支出した巨額の費用を短期間で取り戻す可能性を開いた。
そして石油の存在は、国内のエネルギー供給の面で画期的な解決策を提供するかもしれない。もし石油が豊富に採掘できるのであれば、日本の経済は飛躍的に成長し、国内の産業は新たな力を得ることだろう。そればかりではない。石油を基盤にした新たな産業の創出は、世界経済に対しても多大な影響を与えることになるだろう。
伊藤博文はすぐに方針を転換し、今度は新聞社に向けて新たな指示を出すことに決めた。
「アラスカ購入は正しい選択だったことを広めよ。金鉱と油田の発見は、我が国の経済に革新をもたらす大きなチャンスだ!」
その言葉に込めたのは、何よりも政権の面目を立てるための決意だった。これで一応、政権を支える基盤が整うだろうと、彼は確信していた。
「よし、これでひとまずは安心だ」
心の中でそんな呟きをこぼしつつも、伊藤博文は冷静に次の課題を見据えた。金鉱と石油の発見は、確かに素晴らしいニュースだ。しかし、アラスカを手に入れた以上、それを守り抜くための戦略が必要だ。いくら資源が豊富であっても、その領土が他国に脅かされれば、すべてが無駄に終わるからだ。
最も懸念されるのは、アメリカとの関係だった。アラスカはアメリカの隣接地であり、もし何かの理由でアメリカが介入してくれば、帝国はどう立ち向かうべきか。伊藤博文はその可能性を考え、すぐに対策を講じなければならないと感じた。
まず思い浮かんだのは、メキシコで行われている選挙だった。文民派と軍人派が対立しているという情報を得ていた。もしここで軍民派を支援すれば、アメリカへの圧力をかける手立てになるかもしれない。さらに、カナダとの関係強化も視野に入れるべきだ。カナダはイギリスから自治権を得たばかりであり、外交権を持たない状態にあった。その隙間を突き大日本帝国がカナダと連携を結ぶことができれば、アラスカとカナダの協力体制が築けるだろう。アメリカに対する抑止力となり得るそれは、アラスカを守るための重要な一手となる。
伊藤博文はそのすべてを胸の中で素早く整理し、確固たる決意を新たにした。
「まずはメキシコ、次にカナダ。これでアラスカを守るための足場を固める」
彼はその思いを胸に、再び動き出した。アラスカを守り、発展させるために――そして、その先に待つ未来を築くために。
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