【改稿版】大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐

【伊藤博文】アラスカ購入しますか

「アラスカが欲しい」



 15歳の明治天皇が放ったその言葉には、どこか無邪気さと少年らしい純粋な願望が滲んでいた。まるで、遠くの星を指さして「これが欲しい」と言うかのような、無垢であどけない響きがあった。



 しかしその背後には、国家の命運を左右する重大な意図が隠されていることを、伊藤博文はすぐに感じ取った。明治天皇が欲したのは、単なる土地や資源ではない。アラスカという土地は、帝国の未来を握る鍵となる可能性を秘めていた。



「アラスカって、あのアラスカですか? ロシア帝国が売却先を探しているという……」



 伊藤博文の声には、驚きと戸惑いがにじみ出ていた。アラスカと言えば、遥か遠く、極寒の地に広がる不毛の荒野。それが今、天皇の口から出てくるとは思いも寄らなかった。しかも、その言葉には、まるで子供が無邪気におもちゃをねだるような、純粋で無防備な響きがあった。しかし、その言葉の奥には、計り知れない意図が潜んでいると、伊藤は直感的に感じ取った。



「それ以外ないでしょう?」



 明治天皇は、当然のように答えた。その言葉には、迷いが一切見られなかった。まるで、思いつきで言ったのではなく、既に深い意図と計算があっての言葉であるかのような、重みが感じられた。



 伊藤は天皇の真剣さに圧倒されながらも、冷静にその意味を噛み締めることができた。確かに、ロシア帝国は財政難に苦しんでおり、アラスカの売却を計画しているという情報は彼の元にも届いていた。その背後には、アメリカがその土地を購入しようとする意向があったが、南北戦争の影響で話が一時凍結されているという。今、このタイミングこそが、まさにチャンスだと考えるのも無理はない。



「天皇陛下、ひとまず大蔵省の大久保利通に相談いたします」



 伊藤博文は慎重に言葉を選び、深い思索を巡らせながら部屋を後にした。明治政府の改革が着々と進み、近代化も一歩ずつ進行している。しかし、アラスカの購入が本当に現実的な選択肢となるのか、確信を持つことはできなかった。



 アメリカという強大な国が近くに控えており、その勢力圏に足を踏み入れることがどれほどのリスクを伴うか。思い返せば、アラスカの土地には、未知の資源や可能性が広がっている一方で、その寒冷な環境や孤立した位置が、大きな障壁となることも確かだった。伊藤の頭の中には、無数の不安要素が渦巻いていた。


**


 大蔵省の大久保利通の元に向かった伊藤は、その問題を簡潔に伝えた。



「大久保、天皇陛下がアラスカをご所望だ。そこでお前に聞きたい。アラスカを購入するだけの財産はあるか?」



 大久保利通の顔に一瞬の沈黙が訪れた。彼もまた、状況を飲み込むのに少し時間がかかったようだった。やがて、彼は冷静に答えた。



「なるほど。確かに大日本帝国は他の国に劣らぬほどの蓄えを持っている。しかし、アラスカを購入すれば、財政が厳しくなるのは避けられません」



 その冷静な分析に、伊藤は少しだけ気が楽になった。だが、大久保の次の言葉に、再び彼の心に不安がよぎった。



「もし、アラスカを足がかりにアメリカに進出できれば、話は別だが……」



 大久保の声に暗い色が滲んでいた。彼は、ただ土地を手に入れたとしても、それをどう活かすのか、という現実的な問題に直面しているのだ。



「アメリカへの進出か……。なかなかハードルが高そうだ」



 その言葉に、伊藤は再び深く考え込むこととなった。大久保の言う通り、アメリカという国に接近すること自体が、容易なことではない。地理的にも、そして政治的にも、その障壁は高く険しかった。だが、今すぐにでも決断を下さなければならないという、焦りのようなものが伊藤を突き動かしていた。



「分かった、ひとまず西郷隆盛と勝海舟にも相談してみるよ」


**


 西郷隆盛と勝海舟を招集した伊藤は、今後の方針を決めるために、改めて状況を説明した。



「天皇陛下のご指示だ。アラスカ購入すべきだろうと思うが、どう思う?」西郷隆盛がまず口を開いた。



「もしアラスカを購入すれば、物資の補給が必要になるだろう。そこは海軍直轄の『海援隊』がなんとかしよう。しかし、問題はその投資を上回る戦果を上げられるかどうかだ。アメリカを攻略できるのか、正直言って私には自信がない」



 その言葉に、伊藤は一層慎重にならざるを得なかった。普段は豪快で大胆な物言いで知られる勝海舟が、今回は慎重な姿勢を見せている。彼が抱える不安や疑念が、どこか自分自身のものと重なって感じられた。



「二人とも、貴重な意見をありがとう。下がっても構わない」



 伊藤は二人を送り出し、その後一人で考えを巡らせた。アラスカ購入は天皇の希望であり、大久保利通もその財政への影響を指摘している。西郷や勝も慎重であり、判断が分かれている。果たして、どうすべきか。



 しかし、決断を先送りにするわけにはいかない。伊藤の信条は、迷ったらまずやってみることだった。何かを始めなければ、未来は開けない。何も始めなければ、どんな結果にも至らない。



「アラスカを買いたい」



 伊藤博文は決意を固め、ロシア帝国に電報を打つことを決めた。彼の心は、今や確固たる決意に満ちていた。



 数日後、ロシアから返事が届く。内容はあまりにも簡潔だった。「買い手が見つからないので、ぜひお願いしたい」というものだった。あまりにも迅速で、どこか切羽詰まった感が漂っていた。ロシア帝国はアラスカを早急に手放したいようだ。



 買ってしまった以上、アラスカ購入の代金を上回る成果を出すのが首相である伊藤博文の任務だ。ひとまず頑張ろう。伊藤博文は腹をくくった。

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