【伊藤博文・勝海舟】お友達になりませんか?

 アラスカの極寒の大地に足を踏み入れた勝海舟は、体中が冷え切り、氷のような風が吹き荒れる中で、身震いしながらその冷気に耐えていた。白い息が空気中で蒸発し、凍った大地を踏みしめるたびにガリガリと音が鳴る。まるで、生きていることさえも試されているかのようだ。



 心の中で思わずため息が漏れた。「伊藤博文、なんてところに送り込んでくれたんだ。」冷たい風が容赦なく吹き付け、顔を赤くしながらも、勝海舟は必死に歩を進めた。



 それでも、金の鉱脈を発見したことが彼の心に一抹の誇りをもたらす。アラスカの地で、黄金が輝いている光景を前にすると、寒さも少しだけ和らいで感じられた。彼の目の前では部下たちがせっせと鉱石を掘り、作業に集中している。その手際よさを見ると、明治天皇の英知を感じるものがあった。



 しかし、冷静に考えると、これは単なる偶然に過ぎないのかもしれない。だが、現実に金が出てきたのだ。これが大日本帝国の財政を潤す礎となるだろうか。



「ロシア帝国は、今頃その決断を悔やんでいるだろうな」勝海舟はふと思った。



 アラスカを売却したロシアの過ちを思うと、少しばかりの勝者としての優越感が湧いてきた。ロシアは南下政策を進め、国内の財政が行き詰まり、この土地を手放さざるを得なかったのだ。だが、その結果が日本にとっての大きなチャンスになった。彼は軍人として、これを反面教師にしようと心に誓った。



 採掘作業をぼんやりと眺めていると、突然、東のほうから一団の人影が見えた。勝海舟は目を細めてその集団を注視する。東といえば、確かイギリス領のカナダだ。まさか、金鉱を奪いに来たのだろうか? 一瞬、緊張が走った。もしそうならば、戦争を覚悟しなければならない。



「銃を持て! 相手をギリギリまで引きつけるぞ!」と命じると、部下たちも一斉に銃を構え、緊迫した空気が流れる。しかし、勝海舟は心の中で冷静さを保とうとする。もっと引きつけなければ、弾が当たらない。だが、気持ちが高ぶるのは抑えきれない。



 だが、よく見るとその集団は白旗を掲げていた。戦の前に降伏? 一瞬、理解が追いつかない。これまでの予想を裏切る行動だ。しかし、勝海舟の直感は正しかった。その集団が持っていたものは、戦の申し出ではなく、一通の手紙だった。



「勝将軍! 本土から伊藤首相の電報が届きました!」部下が走り寄り、手紙を手渡す。その内容を読み上げると、思いもよらぬ事実が告げられた。



「カナダとの同盟が成立した。誤って戦わないように」勝海舟は驚き、唖然とした。カナダとの同盟だと? 一体何がどうなっているのか、全く理解できなかった。確かに、戦争を防げたことには安堵したが、何故こんなに遅れて伝えられるのか、伊藤博文には文句の一つも言いたくなった。



 勝海舟はカナダ人たちと握手を交わしながら、心の中で複雑な思いを抱えた。このまま何もせずに戦争を避けるのが最善なのか、それとも、次に何かを進めるべきか。自分の役目は、伊藤博文の指示を守ることだ。しかし、伊藤からの指示が遅れたことには困り果てた。これで戦争が起きていたら、どうなっていたのか。


**


 一方、伊藤博文は勝海舟からの返事を受け取ると、思わず眉をひそめた。金の採掘の報告を受けたことは嬉しかったが、同盟の通知が遅れたことには少しばかり焦りを感じた。しかし、結果としてカナダとの同盟は上手くいったようだ。安堵しながらも、次にどう動くべきかを考えていた。アメリカとの関係は今後、どうするべきか。アメリカのリンカーンが恐れおののく瞬間を、早く見たいと心から思った。



 そして、伊藤博文はすぐに西郷隆盛と勝海舟を呼び、次の策を相談することを決めた。どんな手を打つべきかを、二人ともきっと有益な意見をくれるだろう。これから先の大きな一歩を踏み出すために、慎重に、そして確実に準備を整えなければならない。アメリカに向けて突き進むその時が、ついに来たのだ。

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