マジシャンは戦乱の世に咲く。

七星北斗(化物)

1.マジシャンは戦乱の世に

 時代が進めば、不要な職業が必ずしもできる。


 それは必要なことではあるのだが、寂しいものだと思う。


 もう私の時代は終わりか。


 感傷に浸る時がくるとは、思ってもいなかった。


「師匠ー、構ってくださいよ~」


 少しの間、物思いに耽るのを楽しんでいると、すぐに現実へ呼び戻される。


 その人物は、独特で小さなリボンの付いた黒いマジックハットを被り、可愛らしく小首を傾げる少女。


 胸の開いた赤と黒のマジシャン衣装を身に付け、ミニスカートを揺らすその厄介者の名は、ヨハンナ・ヴォルク。


「ヨハンナ、また君か」 


 呆れたようにシッシっと追い払う仕草をする私に、頬を膨らますヨハンナ。


「そんな~邪険にしないでほしいです~。師匠、マジックを見せてくださいよ~」


「お前は、一度見たマジックは全て再現できる。私が考えうるマジックは、全て見せた。これ以上お前に教えられるものが無いんだ」


 情けない姿を見せてしまっている自覚はある。しかしマジシャンという職業への風当たりは強い。


「またまた~、今日の師匠、冗談キツいですよw」


 ヨハンナは、少しばかり困惑した顔をする。


「マジシャンは、この世にはもう不要な職業になった」


 中々わかってくれないヨハンナへ、現実を突き付ける。


「師匠、何言っているんですか?だってマジシャンは…みんなを笑顔に」


 ヨハンナは、明るい表情から暗い表情に変わり、言葉を途中で飲み込んだ。


「時代がマジシャンを、必要としていないことくらいわかっているんだろ?」


 私の袖を引っ張ろうとするヨハンナの手を払いのけ、マジック道具の片付けを始める。


「でも…」


 それでもといった様子のヨハンナ、私ができることは、早めに夢を諦めさせること。


「でももへちまもない。私は、今日限りでマジシャンを引退する」


 酷い師匠だ。


 恨んでくれて構わない。


 ヨハンナは、師匠のばかーっと言って、そのまま舞台袖から飛び出してしまった。


 私だってマジシャンを辞めたくはないさ、でも見てくれる客が一人もいなかった。


 だったら辞めるしかないだろ?


「師匠の分からず屋」


 ヨハンナは、涙を流しながら橋の下に座り込み呟く。


 まさか師匠があんなことを言うなんて、これは裏切りだよ。


 アタシは、マジックで人を喜ばせたい。


 本当にマジシャンは不要な存在なの?アタシの夢は間違っている?


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 地面に体育座りをしていると、急な雨が降ってきた。


 ゲリラ豪雨に襲われて、慌てて帰ろうとするが周りが見えなくなる。


 そして気がつけば、知らない異世界に立っていた。

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マジシャンは戦乱の世に咲く。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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