出会い

安彦と充希の出会いは二人が学校に入学してから数日が経った頃だった。


充希は中学生の頃からの生粋のギャルでそれは高校生になっても変わることはなかった。むしろさらにギャルに磨きがかかっていた。


綺麗で艶のある髪はアイロンで巻かれ中学生の頃は痛いのが嫌で開けていなかったピアスも何とか開けることが出来た。爪だってネイルで可愛くデコレーションしていた。


充希は全ての出来栄えに満足していた。充希は可愛い。高校に入学したその日には既に校内で話題になっていた。それ故に皆充希に好かれたがった。だから誰も充希に注意したりはしなかった。それは中学生の頃からそうだった。


充希はそれが普通だと思っていたし正直他の子のことを見下してさえいた。


「おい!そこの君、入学して間もないと言うのに校則違反とはどういうことだ!スカートは膝下!装飾品は身につけてはいけない!ちゃんと守れ!」


たがそんな充希に唯一注意したのが同じ学年の柴野 安彦だった。


「はぁー?別に校則とかどうでもいいじゃん?私以外にも無視してる子いるし。てかあんた誰」


「一年生の柴野 安彦だ」


全く知らない名前だった。そして安彦は見るからに固そうな男だった。少しも気崩されることなく着られた制服にピアスやネックレスなどの装飾品の類も一つも付けていない。


「あっそ。じゃあ私行くから」


登校してきた充希がそう言って教室に向かおうとした時、安彦が引き止めた。


「待て。まだ制服を直してないだろう」


さすがに二度も引き止められた充希はカチンと来た。


「あのさぁ、さっきも言ったけど私以外の子も校則とか守ってなじゃん。てか守ってる人の方が少ないんじゃないの?」


充希は鬱陶しそうにそう言い返す。その返答に対して安彦も返答を返す。


「あぁ、そうだな。だから我々風紀委員が存在する。俺だって君だけに注意した訳では無い。今日は既に君で十人目だ。それと皆が校則を無視しているから君も無視していいのか?」


「…うっざ」


充希は適切な反論が思い浮かばつ思わず悪態をついてしまう。


「そうだろうな。我々風紀委員は君たち生徒に嫌われる役どころだろう。それでも真面目に校則を守っている人達が馬鹿を見ないために俺たちは活動している。何も君たちがオシャレをすることを止めている訳では無い。休みの日なんかは存分にオシャレをすればいいだろう。だが学校には学校のルールがある。せめて決められたルールだけは守ってみないか?」


「…」


真剣にそう言われた充希は返す言葉が見つからなかった。今まで充希はルールなどほぼ守ってこなかった。当然、善悪の判断は着く。人としてやってはいけないことはしていない。だが破っても大した支障のないルールなどはほぼ守ったことがない。


今まではそれでも誰も咎めることはなかった。誰かに咎められること自体充希にとっては初めての経験だった。


「まぁ今すぐというのも難しいだろう。徐々に変わって行ってみないか?それまでは俺が何度も注意するがな」


安彦は充希に向かって冗談っぽく言いながら笑顔を作った。その笑顔を見た充希は思わず目を逸らしてしまった。


「ん?どうしたんだ?」


「な、なんでもないし!こ、こっち見んな!」


充希の心臓はバクバクと音を立てて素早く鼓動していた。4月になって暖かくなってきたとはいえ、まだ早朝は肌寒い。だが身体が火照って暑くさえなってきた。


不思議そうにこっちを見ている安彦から必死に目を逸らす。なぜだか分からないが今は安彦の目を見ることが出来なかった。


「わ、わかったから!これでいいでしょ!」


そう言って充希は内側に折り曲げていたスカートを直し膝下まで伸ばしたあと、素早くピアスを外した。


一刻も早くこの場から去りたかった。ドキドキが止まらない。充希はまだこの胸の高まりの名前を知らない。だがこのままここにいるとその名前を知ってしまう。直感がそう告げている。そうなると後戻りが出来ない。自分はその感情の名前を知ってしまうと取り返しがつかなくなる。だから早くこの場を…


「なんだ。それでも十分可愛いじゃないか。よし、行っていいぞ」


笑いながらそんなことをいう安彦の顔を真っ直ぐと見てしまった。そしてその感情の名前を知ってしまった。確信してしまった。


(あぁ、私はこいつが好きなんだ)


好き。好きになってしまった。あってまもない人間を。全くもって充希の理想としているようなイケメンではなく堅物で融通の効かなそうな目の前の男を。


もうこの感情を知ってしまっては後戻り出来ない。ならもう突き進むしか道は残されていない。だが充希は好きな相手にどう話しかけていいかなどわからなかった。何せ初めてできた好きな人なのだから。だから充希は今日も制服を着崩してこれみよがしに安彦の前を通りかかる。


「おい!また君か!スカートは…」


「膝下、でしょ?」



あとがき

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堅物風紀委員とギャル Haru @Haruto0809

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