クジラの国で会いましょう

Rotten flower

第1話

「あぁ。」

島に漂着したみたいだ。これは助かったと見て吉と考えるべきか、はたまた苦しむ期間が長くなると見て凶というべきか。

「……目覚めたんですね。」

とりあえず、今はこの少女の膝枕で癒やされて……。

いやいや。俺は頭をおもむろに上げた。まだ視界がぼやっとしている。一面の青と少しばかりの黄色、砂浜だろう。

……重い腰を力を入れて体を立てる。地面の砂の質感はままである。

「にしても、やけに暗いなぁ。」

「……夜なんですかね、私も少々視界がボケていてわかりません。」


いくらほど時間がたっただろうか。視界のボケは治らないし、空は明るくならない。船の音一つ聞こえない。

「……まぁ、救われただけ良しとしましょうか……。」

「……もしかして、飛行機事故に遭いましたか……?」

「……はい!もしかして?」

「俺もです……。奇遇ですね……。」

「……でもおかしいんです。」

「何がですか?」


「私の乗ったのは国内便、墜落するにしても陸地のはず……。」


「いや、そういうこともありますよ。」


視界のぼやけも取れないまま、火起こしまでできるほどにこの状況に慣れてしまった。海の魚を取りに行きたくても、水温は冷たいし流れも早い。よって、この火は暖を取るとか、落ち着くぐらいしかないだろう。

「中学受験に子役志望……人生ちょっと疲れてたんですけど、こういう落ち着きもいいですね。」

「それは生き急ぎ……、いや親の影響かい?」

「まぁ一部分は……。」

稀にこういう毒親もいるもんだ。きれいに「一部分」なんて言わせるんだから余計にたちが悪い。

「生き急がされ、とでも言うべきかな。親の言いなりになんてなる必要はないんだぞ、まぁなったほうがいい場合もあるが。」

「もう少し、ゆったりと生きていても良かったのかもなぁ。」

「波に揺られる魚のような……クジラとかいいんじゃない?」

「いいかも、来世はクジラで。」

「あ、ここで死んじゃう前提なのね。」

……誰かの叫び声が聞こえる、遠くで人が流されている。下流側からも多くの人々の叫び声が聞こえる。

「私、昔聞いたことあるんだ。三途の川ってこんなかんじなのかも。」

そういうと、彼女は体を少しずつ水に沈めていく。

「もし、転生があるのなら、クジラとしてまた会おうね。」

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