第2話 モーニングルーティン
時は進み四月二十四日。お腹の上に置かれたスマホのバイブレーションで私は目を覚ます。スマホを見ると、午前六時に設定された目覚まし機能が動作していた。もう1人の隣で寝る妹に気遣いアラームは流さない。
朝早くの冷気当てられ布団に篭りたくなるも、あまり時間もないため誘惑に抗い起き上がる。一度起き上がって仕舞えばあとはいつも通りだ。
軽く顔を洗ったあと、まず溜まっていた洗濯物を洗濯機にかける。水道代がかかるので、うちでは大体週に一度まとめて洗っている。
洗濯機を回している間にエプロンをつけてキッチンに立つ。収納から弁当箱を2人分取り出し、冷蔵庫から昨日の夕飯の残り物と卵を取り出す。炊飯器の方へ目を向けると、昨晩自動炊飯の予約をした通りちょうど炊き上がる頃だった。それを確認した私はいつも通り弁当の準備を始める。と言ってもそこまで手の込んだものではない。だし巻き卵を作ったあと、ご飯と昨日の残りものと一緒に弁当箱の中に詰めるだけだ。
手早く弁当の準備を終えた私はそのまま別の家事に移る。部屋の掃除。続いて学校の支度をし、ついでに妹の分の支度も済ませる。最後に洗濯物を干し終わると、時刻はちょうど七時を回った頃だった。ちょうどいい時間になったので、私は寝室へ戻り、妹を起こす。
「莉央、起きて朝だよ」
「んうぃ。まだ夜だよ」
「睡眠時間を要求するんじゃなく時間から偽るのは流石に無理があるからね? もう朝の七時だから起きて」
「うみゅ、おはようお姉ちゃん」
「はい、おはよう」
まだ意識がはっきりしていないらしく、莉央は眠そうに目元を擦る。
恋塚 莉央。私の妹であり市立南中学校の生徒。以前公開授業を見に行った時にはクラスの中心に立ってリーダーシップを発揮していたが、家ではご覧の通りの有様だ。再び眠りについてしまう前に莉央を立たせ、彼女の制服を近くへ持ってくる。
「ほら着替えて。お弁当はキッチンに置いてあるから家出る前に持っていてね」
「ふぁ〜い」
それなりに目の覚めてきた莉央の返事を聞きながら、私も身支度を始める。白銀女子学園高等部の制服であるベージュ色のセーラーに袖を通しスカーフを身につける。通学用のカバンの中身を再度確認したのち、鏡の前で軽く髪を整えればそれで私の準備は完了だ。
リビングへ戻ると莉央が先ほど作ったお弁当のあまりをおかずに食パンを食べているところだった。莉央の隣に座って私も朝食を取る。スマホを見ればカレンダーに仕事の印を見つける。今日の帰りは遅くなってしまうだろう。食事を続けながら莉央へそのことを伝える。
「あ、そうだ莉央。今日バイトで夜遅くなるから。ご飯は作っておくからレンチンして食べてね」
「わかったよお姉ちゃん。ごめんね、いつもお姉ちゃんにばかり頑張らせちゃって」
そうして労いの言葉をかける莉央の表情は純粋に心配をしている人のものだった。どうやら私の仕事の内容は彼女にはまだバレていないようだ。
「気にしないでいいよ。莉央はまだ中学生なんだから。お金の問題はお姉ちゃんに任せて、莉央はやりたいことをやっていいんだよ」
「……ごめんね」
私がどう言おうとやはり罪悪感があるのか、莉央は下を向きながら一言つぶやく。私はそんな彼女の頭を撫でると残っていた食パンを口の中に放り込む。
「おひほうはは」
「あ、お姉ちゃん待って。私も一緒に家を出るから」
口の中にパンが入ったままごちそうさまと言い席を立つと、莉央も同じく残っていたパンを口に放り込み席を立つ。
準備しておいたカバンを手に取りお弁当をカバンにしまう。玄関で一分ほど待っていると準備を終えた莉央がバタバタと走ってくる。
「危ないよ」
「別に大丈夫だよ。お姉ちゃん、いつも準備しておいてくれてごめんね」
「そう思うならもう少し早起きしてくれるかな?」
「うーん、それは無理かな。えへへ」
先ほどとは違い、いたずらげな笑みを浮かべながら莉央はそう答える。そんな彼女を微笑ましく感じ、再び頭を撫でる。
彼女がローファーを履くのを尻目に私は玄関の扉を開けた。
「おはようございます、真央さん」
扉の先には、もはやこの二週間で見るのが習慣となった人がそこにいた。特徴的なプラチナブロンドの髪に小柄な体型。誰がどう見ようと高嶺姫華その人だ。
あの告白の日から二週間。高嶺は毎朝私を迎えにくるようになった。流石にこれには私も危機感を感じたが、現状毎朝玄関に立たれる以外の被害はなく、彼女と口論をする姿を妹に見られたくないというのもあり今は彼女の行動を放置している。
「なんで毎日家の前で待ってるのかな?」
「もちろん、真央さんをお出迎えするためですよ?」
「その行動が『もちろん』で片付けられることではないってことをそろそろ自覚してくれるかな?」
そう言う私の言葉など聞いていないかのように、彼女は私の背後へ目を向け挨拶をする。
「莉央さんも、おはようございます」
「高嶺さんおはようございます! 今日も美人さんですね!」
「ふふっ、褒めていただきありがとうございます」
なぜか妹と高嶺が仲良くなっている。これも私が高嶺を突っぱねれない理由の1つだ。彼女と会う機会は朝の十数分間しかないと言うのにいつ仲良くなったのだろうか? 多少の疎外感を感じながら廊下を進むと、何も言わずとも私の後ろを2人がついてきた。
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