二日目のハーモニー(2)

 いい雰囲気ができてきたところで、時間になったので、解散した。

 その後、セクション練、全体合奏と続いた。さっきのパート練習の感覚を再現するべく、真雪の音を必死で聴きながら吹く。


「『月の光』、選んでよかったね。なんか調子いいでしょ」


 私の様子に気づいた真雪は、満足そうに笑う。

 この日の夜も、お風呂の後にサシ練をすることにした。いつもの基礎練に加えて、今日は和音を一つ一つ、しっかり合わせていく練習。


 昼間練習した内容がしっかり加わっているから、わかりやすい。

 やっぱり真雪は、教え方が上手い。


「今日は、この辺にしとこうか。明日、早いしね」


 真雪がそう提案したので、二十二時くらいまでで、終わりにすることにした。

 部屋に戻ると、私達フルートパート以外のメンバーは、お布団の上で寝っ転がりながら、何やら楽しそうに談笑していた。


「あ、二人とも。いいところに来た」

「ねえ、二人も恋バナしようよ!」


 また出た、女子会あるあるの、恋バナ大会。

 奈緒子と紗絵、それにクラリネットの真里先輩や、ファゴットの絵梨先輩は、私達の恋愛事情に興味津々、と言った様子で話を振ってくる。


 私と真雪は思わず、顔を見合わせる。

 前回は、真雪が助けてくれたけど、同じ部屋である以上、もはや私達に逃げ場はなかった。

 渋々、輪に加わる。今回は先輩がいるので流石に観念したのか、真雪も珍しく仲間に入る。


「美冬は、どんな人が好きなの?」


 まずは、軽いジャブが飛んでくる。

 流石にいきなり、好きな人の名前を聞いてきたりはしない。


「うーん、どんな人だろう。優しい人かな」


 とりあえず、無難な返答をしてみる。


「無難な答えだね」


 私の心を読んだかのように、あろうことか、真雪がそう言う。

 なんだ、てっきりそういうの、興味ないと思っていたのに。なんだか裏切られた気分だった。


「優しいって、具体的にどんな感じ? 例示せよ」


 例示、と来たもんだ。

 日頃から、数学や倫理の授業で鍛えられている彼女たちは、曖昧な答えを許してはくれない。


「うーん、例えば、困っている時に助けてくれたりとか。具合の悪い時に、面倒を見てくれたり、とか?」


 慌てて適当なことを言う。

 でも、あれ、こういう人、身近にいなかったっけ。

 思い出せないから、まあいいか。いるわけ、ないよね。だって、適当に言ったんだし。


「なるほどね」


 奈緒子はニヤニヤしながら、満足そうにうなずく。


「その言い方だと、具体的な相手、いるでしょ? 教えてよー」

「いないよ、そんなの」


 慌てて、首を振る。


「やっぱり、美冬は可愛いなぁ」


 紗絵と千花も笑う。なんだか、良いようにからかわれている気がする。


「ねえ、真雪はどうなの?」

「真雪はモテそうだよね。美人だし」


 今度は、矛先が真雪に向かう。

 申し訳ないけど、ほっとする。と同時に、真雪の恋愛事情が少し気になる自分もいた。


「私は全然モテないよ。相手はいつでも募集中だけどね。男女問わず」


 真雪が冗談ぽくそう言うと、皆が笑う。

 そこから、女子校に通っている誰かの友達が、女の子に告白されただの、そういう噂話に移り変わっていく。


 真雪のネタ的な発言のおかげで、その場はなんとなく収まったのだった。


 時刻は二十三時を過ぎていたので、そろそろ消灯しようということになった。

 照明を落として、みんな大人しく布団に潜り込む。


 私の布団は出入り口から二番目の位置で、私の隣の、一番出入り口の側には、昨晩と同様に真雪がいる。

 なんとなく、そちらを向くと、目が合う。


「明日、朝、よろしくね」


 小声で伝えておく。


「うん。おやすみ」


 真雪の声を確認して、私は眠りの世界に落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る