女子高生らしくはない(1)

 楽器屋さんは、私達の学校の最寄り駅の一つ隣の駅から、二十分ほど歩いたところにある。


 私達の学校自体も最寄り駅から十五分、というような、なんとも微妙な立地で、少しだけ移動は面倒だ。 

 高校の最寄り駅にはお店も何もないから、生徒達が放課後に遊びに行く先は、必然的に隣の駅前の繁華街になる。


 一駅間の運賃は片道百八十円で、往復すれば三百六十円。積み重なれば、高校生にとっては馬鹿にならない金額だ。

 皆その三百六十円をケチって、歩いて隣の駅まで行くことが多い。

 時間にすると、大体三十分くらい。他愛のないおしゃべりでもしながら歩くには、ちょうど良い距離感だった。


「須賀さんて、家はどの辺りなの?」

「ん、私は学校の中の寮に住んでるんだ。実家は、ここから三時間くらい離れたとこかな」

「三時間、遠いね。なんでこの学校にしたの?」

「さあ、なんでだろ」


 なぜか、なんとなく、はぐらかされてしまった。色々事情があるのかな。私は聞いたことを少し後悔した。

 サシ練のおかげで以前より話せるようになったとはいえ、私達はまだ、どこか他人行儀だ。


 高校一年の六月というのは微妙な時期で、仲良くなる人とは早く仲良くなれるんだろうけど、まだお互いに警戒心を持って接しているところがある。

 どこまで踏み込んで良いのか、お互いに探り合っているような、そんな感じ。


 私達の学校は、実はそれなりに有名な進学校で、偏差値は公立の中ではトップクラス。毎年何人かは、東大とか京大とかに進学したり、たまに海外の大学に行ってしまうような人もいる。


 ……さすがに私はそこまでのレベルには行かないだろうけど。


 ともかく、そういうような学校の生徒というのは、下手に頭がまわるゆえ、どこかお互いに遠慮しているというか、相手を気遣って器用に立ち回る人が多いように感じる。


 だからきっと須賀さんも、そういうところがあるのかもしれない。

 といっても、この間みたいに授業をサボったりしているところを見ると、ちょっと他の生徒とは雰囲気が違いそうな気もするけれど。


 部活や授業の話をしたり、時折少し沈黙が流れたりしながら、私達は隣駅までの道のりを歩いて行った。


 楽器屋のあるビルは、駅前から少し離れた通りにあって、周りには居酒屋やホテルといった、高校生にはあまり馴染みのない建物が多く並ぶ。


 あまり気にしないようにしてはいるけれど、たとえば、暗い時間に一人で歩くのは少しだけ怖いと感じる道だ。

 女の子同士とはいえ、二人並んで歩くと、心なしか安心してしまうのだから、なんとも不思議なものだった。


 午後五時半を過ぎて、まだ明るいとはいえ、少しずつ活動を開始してライトアップされた街の景色をものともせず、須賀さんは慣れたように歩いて行く。


「須賀さんは、楽器屋さんよく行くの?」

「うん。CD買いに行ったりとか、よくするよ」

「そうなんだ。誰かと一緒に?」

「いや、一人で行くことが多いかな。あんまり趣味の合う友達がいるわけでもなかったし」

「そっか。……この道、一人だと怖くないの?」

「うーん、あんまり考えたことはなかったな」

「……なんか、やっぱり須賀さんって、すごいね」

「そうかな」


 ちょっと大人な雰囲気の通りをひたすら歩き、ようやく楽器屋さんの入っているビルに到着した。

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