第2話
あれからどれくらい経っただろうか。
ここには時計も無いし、携帯も無い。時間に囚われないと言うのは良い事だ。自分自身を見つめ直す時間ができる。
車窓の景色は相変わらず一面湖だ。
面白みに欠けると言えばそうなのだが、これもこれで悪くない。
コツン、コツン、コツンと足音が近づいてくる音がする。その音は徐々に増していき、私の方へ向かってきた。
「良かったあ...人が居た」
そこには一人の少女が立っていた。長い髪を伸ばし、瞳にサファイアの色を持つ特殊な女の子だ。目が合うなり、彼女は私と向かい合うように座席に座った。
「私はマーリィ。マーリィ・ローズ。貴方は?」
「ごめんな、名前が思い出せないんだ」
「へえ...変わった人ね。それはそうと、貴方随分ガッチリとした体してるのね」
そう言われればそうかもしれない。筋肉質で重い体だ。私の体には幾つかの傷跡もある。
「もしかして、兵隊さん?」
「どうだろう...それも分からないんだ」
「じゃあ今から貴方の名前はサルダートね。名前が無いと困るもの」
「はは、そうしてくれ」
「サルダート、ここが何処だか分かる?」
少し身を乗り出して、マーリィは私に質問した。
「分からない。だけど、悪い場所では無いと思う」
「そうよね。私も眠っていたはずなんだけど、いきなり飛ばされて、気づいたらここだったの」
マーリィの目は輝いていた。幼い彼女にとって、ここはおとぎ話の世界と大差ない。とてもこの場所が気に入っているように見える。
「ねえ、アルバート。探索しましょ!もしかしたらここが何処なのかの手掛かりが見つかるかも!」
マーリィはどうやら気が早いらしく、席を立つと、直ぐに私の腕を掴み、何度も引っ張ってくる。だが、体はビクともしない。僕はこの光景を幾度となく見てきたような、そんな気がした。
「ごめん、マーリィ。僕はここから動けないんだ」
マーリィは私の足元に目を向ける。すると、マーリィは納得したような表情を見せた。
「そういう事なのね...なら仕方ないわ。1人で探索してくる」
「何かあったら戻ってきてくれ。私ならどうにか出来そうだ。この座席の範囲だけならば」
「ふふ、それじゃ意味ないじゃない。...わかったわ!何かあったら報告するわね、それじゃ」
微笑みを浮かべたマーリィは直ぐに走って次の車両へと向かっていった。
マーリィが車両を移ったその時だった。
「きゃああああ!!!」
マーリィの悲鳴が聞こえ、直ぐさま車両を覗こうと、力を振り絞る。
——————ここで僕の記憶は、1度途絶えた。
この列車に終点はございません。 すみのいさき @suminoisaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この列車に終点はございません。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます