第3話【二人の写真】

「お待たせしました。カップル限定特大パフェでございます」

 

しばらくするとお洒落なカフェの制服を着た店員さんが俺たちの注文した特大パフェを持ってきた。

 目の前のテーブルに置かれたパフェを見ると、本当に全部食べれるのかと少し不安になった。

 カップルで食べるなら二人分の量があってもなんとも思わないが、目の前にあるこのパフェは三人分はある。


「わぁ~! 写真で見るよりも大きい!」


 そんな不安を抱いている俺とは真逆に、萌香は目の前の巨大パフェを見て目を輝かせている。

 どうやら萌香の反応を見る限りその心配はしなくてもよさそうだ。

 

「萌香ってそんな甘いもの好きなのか?」

「ええ、大好きよ。まずは~」


 萌香はそう言ってポケットからスマホを取り出し、パフェに向ける。

 食べる前に写真を撮るのか。

 確かにこんな大きなパフェを前に出されたら写真の一枚も撮りたくもなる。

 俺もスマホを手に取り、写真を一枚撮った。

 もうこんな大きなパフェを食べる機会なんてこないかもしれないしな。


「ほら、暖人。こっち来て」


 そう言って萌香は俺に手招きをしてきた。


「は?」

「いいから早く、早く」

「あ、ああ。分かった」


 俺は良く分からないまま萌香の隣に座る。

 そして愛菜はスマホを持った手をパフェの後ろへと持っていき、写真を撮った。

 いわゆるツーショットというやつだ。

 あまりにも急な出来事に俺は呆然とする。


「よし! 後で送っておくね。それじゃあ食べよっか!」


 愛菜はパフェ用のスプーンを片手に声を弾ませた。

 そんなこと言われてもなんで萌香は俺とのツーショットを撮ったのか理解できない。俺はそのことが気になって仕方がない。

 

「いや、なんで俺となんかと一緒に撮ったんだよ」

「記念よ、記念。せっかく二人で来たんだから」

「普通に萌香とパフェだけ映ってればよくないか?」

「なによ、私と写真撮るのそんなに嫌だった?」

「いや……嫌じゃないです」


 萌香とのツーショットを望む男子がこの世に何人いると思っているんだか。

 嫌なんて思う人はまず居ない。

 俺もパフェ用のスプーンを手に持った。

 俺と愛菜は同時にパフェにスプーンを入れ、口元へ運んだ。

 生クリームは甘さ控えめで、イチゴソースは甘酸っぱく生クリームと凄く合う。

 それにバニラアイスクリームも加わればさらにおいしくなる。

 

「ん~~~~! 美味し~」


 萌香は左手を頬に当て、幸せそうな表情でそう言う。

 うん。可愛い。

 

「食べたね~。もうお腹いっぱいよ~」

「俺もだ。逆にこれ食べてお腹いっぱいにならない人は凄い」


 カップル限定ということもあって結構な量あるパフェを二人で平らげ、背もたれにもたれながらそう口にした。

 確かに美味しかったけど、流石に大きすぎた。

 

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか。店内も混んできてることだし」

「そうだな」


 周りを見渡すと席はいっぱいになっていた。

 俺が立ち上がると続いて愛菜も立ち上がり、俺とならんで会計へと向かう。


「ありがとうございます。お会計合計で三千円になります」


 パフェ一つで三千円は高いと思うかもしれないが、あの量のパフェであの美味しさなら安いと思ってしまう。

 俺は財布から三千円を取り出し、カルトンに乗せた。


「暖人、私が払うから良いわよ」


 そう言って萌香も財布を出そうとするが、一度出してしまったんだから戻すのもどうかと思い、萌香の手を止めた。


「良いって。俺だって食べたんだし」

「食べたって言っても半分でしょ? ならせめて私にも半分は出させてよ」

「じゃあまた今度ジュースでも奢ってくれ。すいません、これでお願いします」


 俺がそう言うと店員さんはレジを打ち会計を済ませた。

 

「やっぱり悪いよ。私、お金の事はきっちりしたいの」


 萌香はカフェから出ると直ぐにそう言って千円札と五百円玉を俺に差し出してきた。

 

「それに、私の恋人のふりをしてほしいって我儘も聞いてもらっちゃったし……なんなら私が全額出すわよ」

「いや、いいって。俺が勝手に萌香の彼氏のフリをしただけなんだし」


 俺は無理やりお金を押し付けてくる萌香の腕を掴んだ。


「さっきも言ったけど、また今度ジュースでも奢ってくれ」

「ジュースはそんな値段しないわよ……するのもあるけど」


 後半はもうほとんど聞こえなかった。

 

「あー、もう! こういう時はありがとうって一言いえば終わりなんだよ」

「…………ありがとう」

「ああ、それでいいんだよ。じゃあ帰るか。家まで送る」


 多分、萌香の両親が萌香を徒歩で登下校させない理由は萌香のこの容貌にある。

 萌香とすれ違う人のほとんどが萌香を一度は見てしまう。それくらい可愛い萌香を一人で歩かせるのは危険と判断したのだろう。

 さっきだってナンパされていたし。

 

「別にいいわよ。私一人でも帰れるし。そこまでしてもらわなくても」

「いや、家まで送る。萌香一人で歩かせるのは危険だし。何時誰が萌香を襲うか分からないからな」

「……ありがとう」

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クラスのお嬢様の彼氏のフリをしたら懐かれて甘々に 月姫乃 映月 @Eru_ZC

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