第2話【恋人の証明】

 カフェ店内にはこの時間帯だからか、あまり客はいなかった。

 俺たちは店員さんに席へと案内され、向かい合うように腰を下ろした。

 茶色を基調としたお洒落なカフェで、やはり俺一人で来るのにはハードルが高く、なんか少し緊張する。


「ご注文お決まりでしたらお呼び下さい」

「あ、えーっと、これ一つお願いします」


 席に着くと直ぐに店員さんが注文を取りに来た。お洒落なカフェなだけあって、店員さんも凄くお洒落で可愛らしい。

萌香はメニュー表を指さしてパフェを注文した。

 メニュー表に載っているパフェの上にはしっかりと大きくカップル限定メニューと記されていた。

 なんで限定なんかにするのだろうか……誰でも食べれるように限定になんてしなければいいのに。

 

「ん? こっちじゃダメだったのか?」


 俺はメニュー表に載っているカップル限定のパフェとは別のパフェを指さして萌香に聞いた。

 大きさはカップル限定パフェと比べれば小さいが、美味しそうだ。

 それにこっちのパフェにすれば俺と来なくても一人で注文ができる。


「こっちのパフェはもう食べたことあるもの」

「そうなのか」

「あの、他にご注文はございませんか?」

「私はパフェだけ良いのだけれど、暖人は他に何か注文する?」

「いや、俺もパフェだけで良い」


 この大きさのパフェを食べて、更に他にも料理を食べるのは俺には不可能だ。

 無理をすれば食べれないことはないが、夕飯が食べれなくなってしまうのでそんなことはしない。


「かしこまりました、ではカップルであるための証明として恋人繋ぎをしていただけますか?」

「「…………は?」」


 俺と萌香は店員さんの言葉を聞いて口を開いた。

 そんなの聞いていない。

 萌香も俺と同じ反応をしたという事は、この事を知らなかったのだろう。

 メニュー表にもそんなことは書いていない。


「一応カップル限定パフェでございますので、ご協力お願いします」


 予想外の事態にどうしたら良いのか俺には分からない。

 やっぱり今からでも実はカップルじゃないって言った方が良いか?

 萌香は顔を赤くして俯いているし。

 でもせっかく来たんだからって気持ちも少しある。

 どうする……こういうのは男である俺から繋ぎにいった方が良いのか?

 でも無理やり繋いだりなんてしたら何か言われるかもしれない。しかもただの手繋ぎじゃない。恋人繋ぎだ。

 そう迷っていると、萌香は右手を俺に差し出してきた。

 

「え?」

「な、なによ……私たち恋人なんだからこれくらいの事はできるでしょ?」


 そんな可愛らしく顔を赤らめて言われたらこっちまで恥ずかしくなってくる。

 

「あ、ああ……」


 俺は萌香の小さな右手を優しく握った。

 真っ白で綺麗な肌、握ったら折れてしまうのではないかと思わせるほどの小さな指。


「ありがとうございます! では直ぐにご用意させていただきますので少々お待ちください」


 そう言って店員さんは軽く頭を下げた。そして――


「彼女さん、凄く可愛いですね」


 店員さんは萌香には聞こえないように俺の耳元でそう言った。


「ッ! ……は、はい」


 そして厨房へと向かって行った。

 そうだよな。店員さんは俺と萌香の事を本当の恋人同士だと思っているんだよな。

 俺は萌香の顔を見つめる。


「な、なによ」

「いや、なんでもない」


 改めて見てもそこらのアイドルなんかよりも全然可愛い。

 俺はそんな萌香のフリとはいえ彼氏なんだよな。まぁ、今だけだけど。


「気になるじゃない」

「ただぼーっとしていただけだ」

「……まぁ、そう言うことにしておいてあげる。……ねぇ暖人。フリとはいえ、私の彼氏になるの嫌じゃない?」

「嫌なわけないだろ」


 何を言っているんだこいつは。

 こんな可愛い女の子の彼氏になるのが嫌な男子が居るわけがない。フリだけど……。


「そ、そう……なら良いけど」

「ん? どうかしたのか?」


 萌香の顔は何故か少しだけ赤い。

 

「な、なんでもない!」

「いや、でも顔赤いし」

「あ、赤くないから!」


 そう言って愛奈は下を向いてしまった。



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