4.ノックは丁寧に
「出てきやがれゼガン!」
カディは大声を出すが、閉め切った二階に居るシュナイルには届かない。
「駄目だよカディ。それじゃ悪役みたいじゃないか。まずはインターホンを押さないと。堂々と正面から行った方がかっこいい」
スレッドはそう言うと、ルオーケイルを動かした。
膝を付き、左腕を屋敷の屋根に乗せ、右の人差し指をゆっくりとインターホンへと伸ばす。2メートルにも満たない人間が押すならともかく、ルオーケイルの全長は28メートル。
「こうピンポーンって……」
ルオーケイルが指先でインターホンを押すと、壁に穴が空き、扉の周辺が崩れた。
「あれ?」「あれじゃねぇよ」
同時に、左腕を乗せていた屋根の部分も重さで崩れ、結果的に屋敷は半壊した。
「あれれ?」「あれれじゃねぇわ」
操縦こそ正確だったが、そもそもの手が大きく重い上、爪が鋭すぎたのだ。
呆れるカディの耳に、銃声が聞こえてくる。直後に窓が割れ、そこからシュナイルが出てきた。
「良くねぇなあ。人の家をぶっ壊すなんてよぉ! 本当に良くねぇぞコラァ!! こんな奇襲みたいな真似じゃなくて、堂々と正面から来いやぁ!」
歯を剥き出しにしながら、シュナイルはスレッドに銃を向ける。
「インターホンを慣らしてから挑むって、堂々としてないの?」
「そうなんだが、そうじゃねぇんだ」
「うるせぇぞコラァ!!」
シュナイルは銃を撃つ。狙われたスレッドは反射的にコクピットの中に引っ込んだ。
「あぶないなぁ」
「ともかく、てめぇがシュナイルか」
「てめぇがカディか。人様の家をぶっ壊すなんていい度胸じゃねぇか。あぁ?」
「それ以上をぶっ壊してるてめぇが何言ってやがる」
「うるせぇ!」シュナイルが銃を構え、発泡する。
カディは銃身から体を逸らすことでそれをかわし、真正面からシュナイルへと突っ込んだ。
「はやっ」
黙らせるように頭を掴み、シュナイルを地面に叩きつけると「てめぇも化け物か!?」という言葉が返ってきた。
「知るか。お前ゼガンなんだってな。メダル持ってんだろ? とっとと出せ」
銃を持つ手を握りしめ、無理やり手放させるカディ。人間離れしたカディに組み付かれては、勝ち目は無い。
「まさにならず者って感じ」スレッドが二人のやり取りを見ながら言った。
暴力に任せて、メダルを奪うこともできる。しかし、カディはそれをしなかった。シュナイルの……ゼガンの実力を知っておきたかったのだ。
「ま、待て、今出すから。な? な? な? な?」
シュナイルの言葉を聞き、手を離すカディ。充分な距離を取ったシュナイルは、親指を下に向けた。
「今だてめぇら!!」
直後にカディ目掛け、二振りの腕が振り下ろされる。
シュナイルの庭にあった二機のフォールブを、別の部下が動かしたのだ。
太い二本の腕に、短い足。そして、強化ガラスで覆われた操縦席。純粋な人型がイヴォルブなら、このフォールブは人型と重機を足して割ったような、手足のある作業用機械のような見た目をしていた。
「お互い容赦ないね」
生身の相手にフォールブを使う輩を見て、スレッドはつぶやく。言ってしまえば、ケンカで勝てない相手を車や重機で倒そうとしているのと同じ。
しかしスレッドは、その判断は間違っていないとも思った。
飛び退いてかわしたカディは二体のフォールブに目を向け、操縦席の位置を確認する。
生身でフォールブの相手をするのは、初めてではない。
まともにやりあえば勝ち目はないが、フォールブは乗り物。操っている人間を引きずり下ろせばいい。
一気に駆け寄ったカディは、デザインの出っ張りや腕を伝って飛び上がり、操縦席に取り付いた。
「なんのつもりだてめぇ!」
イヴォルブの装甲ならばともかく、操縦席を覆っているのは強化ガラス――壊せないこともない。
カディは操縦席を殴りつけ、隔てていた透明の壁を砕いた。驚く部下など気にせずに手を伸ばし、体をそこから引っ張り出す。
「な、なにを……」
そしてそのまま、もう一機のフォールブの操縦席目掛け、部下を投げつけた。
「えっ……」
操縦席の視界を塞いだ者を見て、もう一人の部下の動きが止まる。
カディはそのまま近づいて、もう一機の操縦席を破壊した。
「フォールブが足止めにもならねぇとはな」
改めてカディの暴れぶりに驚くシュナイル。あいつを倒すには、イヴォルブを使うしかない。
シュナイルが取り出したのは、手のひらに収まるくらいの白い玉『ヴァリエス』
「出やがれ……」
白い玉が変形し、手甲のようにシュナイルの手を覆う。
ヴァリエスはイヴォルブの核。適合者が意識を込め、名を呼べば……
「ジュアレフ!」
この世に存在するありとあらゆる物質を媒介にし、現れる。
足元の地面に降り注ぐ雨粒。周りの木々や家の残骸が浮かび上がり、シュナイルの周囲で回転する。
それぞれ名前も性質も違う物質は、ヴァリエスの力によって、イヴォルブを形作るパーツへと変換させられる。
全てはヴァリエスの奥に記憶された、イヴォルブの姿を具現させるために。
「カディ、あれ」スレッドが指を差し、カディもそれに気付く。
シュナイルが居た場所には、いつの間にか白い繭ができていた。しかし、それが見えたのは数秒で、繭は瞬く間に収束し、ある形へと変わっていった。
それは、元となった地面や水をどう組み合わせても絶対に作り上げることのできない、黄色の装甲に身を包んだ、27メートル程の人型兵器。
こめかみの部分についた二本の太い角は、それぞれが砲門になっている。
「こいつがジュアレフ!」
ジュアレフはすぐにカディの元へは向かわず、ある場所へと歩いていった。そこにあったのは、トラックの荷台のような、長方形のコンテナ。
「そしてこいつがぁああ!!」
中に入っていたのは、ハンドガンやマシンガンといった、ありとあらゆる銃。それらを両肩に装着し、両手に握ったシュナイルは、力強くこう言った。
「ジュアレフ・シュナイルスペシャルだ!! 毛の一本も残さず消えなァ!!」
ためらうことなく、無数の銃でカディを狙うシュナイル。
一人を撃つにはあまりにも過剰な、一帯を更地に変えんばかりの鉛の豪雨が降り注いだ。
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