第15話
それは盲点だった。
つい先日、あんなに買い物したのに?
まだ、なにかを買ってきてしまうと? 疑問符で埋め尽くされかけている私を見て雄介さんは聞く。
「生粋のお嬢様育ちで、可愛がっている子に似合いそうなもの見つけた場合の行動は?」
先日のアウトレットモールや外商の場面を思い出し、私は大きく肩を落として一言返事をした。
「覚悟しておきます。一応しまいきれないのと高額品が多すぎて、外商で買ったものは本宅でお預かりしてもらったのですが」
私の一言に、雄介さんが告げた。
「本宅で保管してもらい、見に行って気に入ったものを持ち帰ると伝えておこう」
ここに物が増えるのはもうしんどいので、それでお願いしたいと私は強く頷いて同意を示した。
「それでお願いします」
私の返事を聞くと雄介さんは時間が来たので出社していった。
私も家事を済ませ、自由時間に本を読んだり、好きに見て良いと言われてテレビでサブスクから映画を見たりして過ごす。
午後に入り、洗濯ものを片付けているとインターホンが鳴り片瀬さんが来たとのことで迎え入れる。
そんな千佳の言葉に、一緒にいた久実さんが答えた。
「千佳ちゃん、久しぶりね。咲良ちゃんは今我が家にいるから大丈夫よ。ここは警備もマンションより厳重だから」
「あら、久実おば様。咲良は日菱の本宅に居るのね。それなら安心だわ。今後書類や顔を合わせての打ち合わせは私がそちらに行きますね」
「えぇ、千佳ちゃんなら門で話せば入れるようになっているから大丈夫よ」
なんだか、私ずっとここに住むみたいになっているのは何でかな?
雄介さんが出張から戻れば、タワーマンションに帰るものだと思っていたけれど。
「浮気相手の女性に関しては日菱が動くから大丈夫よ」
うん、なにも口を挟まないほうが良さそうだと察しました……。
「それなら、なにか分かった時点でお知らせくださると助かります」
「えぇ、分かったわ」
「咲良。日菱の本宅はすごいところでしょう? 存分に楽しんで」
そういうと通話は切れた。
いろいろあったが、雄蔵さん簿手術が無事に済んでなによりだった。
「そろそろ三週間近いからね、経過観察に往診に来たよ」
今回も雄介さんが往診依頼を出したらしい。圭太は居なくなったから同じマンション内のクリニックのある階に行くのは平気だと思うのだけれど。
「今回もわざわざすみません。そろそろ大丈夫だと思うのですけれど」
苦笑しつつの私の言葉に、大樹さんは首を横に振って否定する。
「追い詰められた人間は何をするか分かったものではない。だから、相手側の動きがはっきりするまでは用心していたほうが良い。伯母さまが動いているから、きっと早いうちに解決するとは思うけれどね」
片瀬さんの言葉に頷きつつ、診察を受ける。
「腫れも赤みも消えているね。動かしたときの痛みは?」
「今は動かしても痛くないので、だいぶ良くなりました」
私の返事にタブレットでカルテ記入する片瀬さんは、微笑んで告げた。
「経過は順調だね。来週、解決後に下の診療所でレントゲンを撮って問題なければ完治かな。引き続き無理はしないように」
そう告げて、往診を終えた片瀬さんは爽やかに去っていった。
その日の夕飯は私が食べたくてグラタンにオニオンスープとサラダにしてみた。
帰って来た雄介さんは、今日も美味しそうに完食するとカフェラテをもって二階に上がっていった。
今日もまだまだ仕事は終わらなさそうで、本当に体調を崩さないかひやひやしている。
二十三時頃には降りてきてお風呂に入り、私と出かけたときに購入した疲労回復のルームウェアを着て出て来た。
「これ、咲良さんに勧められて買ったけれど、すごくいいよ。確かに疲れが取れる。追加を買おうと思うのだが、咲良さんもいる?」
「この間、色違いで四着も買ってもらったので大丈夫です」
私の返事にそう?と小首をかしげつつ、雄介さんは去っていった。
御曹司、やっぱり金銭感覚おかしいね……。
相変わらず、なかなか出られないままの日々を過ごしているがテレビで映画もドラマも見放題だし、と思うものの。
「いい加減、出かけたい。気晴らしが読書、テレビ、料理しかないのも飽きて来た……」
ぼそっと呟くも、一人の部屋には誰の返事も無い。
そこに電話が鳴る。
「もしもし、千佳? どうかしたの?」
「いま、テレビ見ている? そしたら、毎朝テレビに切り替えて」
千佳の声に私はリモコンでテレビを切り替えると、そこに映ったのは圭太が浮気していた女性。
どうやら、最悪のパターンの報道。
事件に巻き込まれたようで、その報道の被害者名簿の一覧に名前が載っていたのだ。
国内では珍しい、テロ組織による犯行声明が出されており警察も現在テロ組織を追跡中との話に切り替わり報道は終わった。
「そう、亡くなったのね。これで、圭太も遠くに行ったし私は出歩けるけれど。こんな結果は望んでなかったわ……」
「そうね。私としても、しっかり金銭で反省させたかったけれど。とりあえず、咲良の近辺は安全にはなったと思うわ」
「連絡ありがとう。複雑だけれど、一つの懸念は払拭されたものね。なにかあったらまた連絡してくれる?」
「えぇ。またね」
そうして、私にまつわる婚約破棄関連の身の安全に関しては確保されたがすっきりとした終わりではなく後味の悪いものになった。
夜、雄介さんが帰宅しキッチンで料理をしていた私の元へ来ると顔を見て言う。
「今日の報道は俺も見たが、なんともすっきりしないものになったな。大丈夫か?」
「千佳が連絡くれて、見たわ。確かに複雑だけれど、でも外に出られると思うと嬉しくもあるの。そう思うと少し自分が嫌になるの」
私の頭をぽんぽんと撫でると、雄介さんは言った。
「嫌にならなくていい。これは彼女が自身で招いたことでもあると思う。悪いことをすれば、巡り巡って自身に返ってくるものだから。だから咲良さんは自分を嫌いにならなくていい」
こういう時に一人じゃなくて良かったかもしれない。
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