第13話

 翌日、私は買ってもらった綺麗めではなく普段使いのサマーニットとフレアボトムスにサンダルで現在久実さんと大型アウトレットに来ています。


 あれ? 買い物は昨日済んだのでは? と思いつつ、運転手さんの運転で運ばれてきました。


「今日はここで、普段使いのお洋服を買いましょう!昨日は綺麗な物やよそ行き系ばかりだったでしょう?それに報告したら雄介が、咲良ちゃんが買いすぎできっと困ったはずだって……」


 さすが、一度は一緒に買いものに行き普段の生活もよくわかっている雄介さんならではの助言だ。


「だから、ここなら普段使いの物を思う存分買えると思って。私も前から行ってみたかったの」


 どうやら、私を口実に行ってみたかったアウトレットモールを堪能するみたい。


 確かに昨日よりは緊張も身構えも必要なさそうなので、今日は存分に回ろうと思います。


 護衛さんも距離を置きつつ付いていて、側付きの方が買った荷物を持ってくれる。


 奥様、お嬢様のお買い物スタイルなので、なにかやっぱり普段の買い物とは違うけどお値段がまだ機能に比べたらどんなに高くてもゼロが一つは少ないのでお買い物しやすい。


 ちょっと感覚がおかしくなっている気もするが……。


「咲良ちゃん、今度はこっちにお店にしましょう?ここ、咲良ちゃんに似合うと思うの」


 向かった先の店舗は私も好きなブランドで、二十代のOLに人気のお店。


 綺麗めカジュアルから可愛いフェミニン系まで揃っていて、お手頃価格なので大人気。


 なにより形が被っても色展開が豊富なので、色は被りにくいのがOLに人気の理由だったりする。


 価格帯もお財布に優しく、縫製も問題ないので私もよくシーズンごとに買い物に行っているショップだ。


「さ、咲良ちゃんに合いそうなもの、どんどん買いましょ!」


 それにカラーコーディネーターの資格をもっているからか、私が普段避けがちな色味でも、似合うよとあてがわれると確かに違和感なくしっくりくるので買ったものもある。


 母が生きていたら、こんな風に一緒に買い物ができたのかなと考えるとちょっとしんみりしたが、楽しまなきゃもったいない。


 久実さんと思う存分回ったら、しっかり夕方になっていた。


 さすが大型アウトレット。


 ランチも、私のお勧めでビュッフェに行ったら、食べ放題に驚いていた。


 いいところの奥様に、ちょっと教えてはいけないことだったかもしれないと思いつつ私は存分に楽しませてもらった。


「アウトレットって、本当にすごいわね。良いものが安くで手に入るし。試作品の一点ものとかも面白くていいわ」


 そう、企業が試しに作って商品にならなかった試作品も売られているのがアウトレットでそういったものは一点ものが多く、尾も色いものも多いのだ。


 私もそういったものは行くとチェックしがちなので、久実さんの面白いと感じた部分に共感できる。


「たくさん歩くので疲れるけれど、見て、ほかのお店とも比較したりして楽しいですよね。私は結構年に二回くらいは行くんですよ」


「そうなのね。また一緒に来たいわ」


 そんな会話をしつつ、大量の荷物と共に日菱本宅へと帰還すると一時帰国していた雄一さんが出迎えてくれた。


「楽しい買い物だったみたいだね。良かったよ」


 運ばれていく荷物を眺めつつ、雄一さんは久実さんを迎えて微笑んでいる。


 仲のいいご夫妻よねと眺めていると、雄一さんは私に言った。


「すっかり娘ができたみたいに連れまわしちゃって、大丈夫だったかい?」


「大丈夫です。母が生きていたら、こんな風に親子で一緒に買い物したのかなと思って。私も楽しかったですから」


 私の返事に雄一さんは頷く。


「それじゃ今日に一日を聞きながら一緒にご飯を食べようか」


 そうしてダイニングで久実さんと雄一さんと今日のアウトレットでの出来事を話ながら美味しいご飯を食べた。


 今日はイタリアンで、楽しい夕飯になった。


 父と母が居たころの生活を思う出すような、そんなひと時になった。


  お買い物を二日駆けて満喫すると、翌日は雄蔵さんの手術日なので、久実さんと病院へ行く。


「手術となるとやっぱり心配よね。でも、お義父様が一番不安なのですもの。私がしっかりしないと」


 車で久実さんが不安そうにしているのを私は隣から励ます。


「きっと大丈夫です。雄蔵さんの入院している病院は手術件数も多いし、手術器具も最先端ですから」


 私の言葉に、久実さんも落ち着きを取り戻し頷いた。


「そうよね、都内で有数の病院ですもの。大丈夫よね」


 手術前の病室に顔を出すと、雄蔵さんは顔色も良くかなり調子もよさそうだった。


「おぉ、久実さん、咲良ちゃん来てくれてありがとう。サクッと終るというから、安心だ。ちょっと待っていてくれな」


 雄蔵さんはその後主治医からもしっかりと細かく手術についての説明を受け、本人もしっかり納得して手術に臨むことになり病院関係者からも感謝された。


 甲唐大学附属病院は日菱の医療分野とも提携があり、そこの会長の雄蔵さんにはやはり元気でいてもらいたいと願っていた。


 頑なな手術拒否に、雄一さん久実さんと共に頭を悩ませていたという。


 私の話で無事手術の話が本人にも出来て、それを納得してもらえたことはかなり喜ばれた。


「えぇ、無事に終わってお戻りになるのを待っていますね」


 看護師さんたちが準備を行い、手術室へと入る雄蔵さんを見送った。


 それから予告通り、手術は順調に進み、二時間後には手術ランプが消えて麻酔がまだ解けないままの雄蔵さんが戻って来た。


「そろそろ麻酔が解ける頃なのですが、お声がけに返答がなく。ご家族に声掛けをお願いしようと思いまして。手術は無事に終わっています」


 そんな執刀医の言葉に、久実さんが声をかける。


「お義父様、手術終わりましたよ。起きられますか?」


 そんな声掛けに、雄蔵さんはちょっとした声を上げる者の目を開けない。


 私はその横でスマホから中東へ出張中の雄介さんに連絡する。


 今日が手術日だからか、電話はすぐに繋がった。


「咲良さん、なにかあった?」


「雄蔵さんの手術は無事に終わったのですが、麻酔が解けるはずなのに目覚めなくて。家族の声掛けをとのことで、久実さんが声をかけてもダメで。雄介さんにもと思ってお電話を」


「分かった。スマホをスピーカーにしてじいさんに向けてくれ」


「はい、どうぞ」


「じいさん。手術終わったぞ!そろそろ起きてくれ」


 雄介さんの声に反応してようやく雄蔵さんが意識を回復し目を開けた。


「日菱さん、目覚めましたね? お疲れさまでした。手術は無事終わりましたよ」


 そう言われて、私も一安心その後は特別室に戻り休みつつも会話もできる状態になり、夕食まで見届けて久実さんと本宅へと帰宅した。


 お祖母ちゃんの時も同じくらい待ったし、私も起きないお祖母ちゃんに声掛けたなと思い出した。


「咲良ちゃんの機転で、雄介に電話したおかげで目覚めてくれて良かったわ。本当に今日はありがとうね」


 そう言って、帰宅前にパティスリーに立ち寄って美味しそうなフルーツタルトを買ってもらった。


 夕飯は和食で、その後に買ってもらったタルトを堪能していると私のスマホが鳴った。


 見れば、千佳からの着信。


「もしもし、千佳」


「咲良、今大丈夫?」


「大丈夫よ」


「中原圭太とその浮気相手なんだけれど、中原さんは左遷で四国支社に転勤命令で昨日には移動したわ。今後十年以上は都内に戻すつもりは無いそうよ。あと、浮気相手の女性は派遣会社から解雇通知。よその派遣会社も登録拒否で、その後は行方が追えなくなったわ」


 圭太については雄介さんから聞いていたのでいいのだが、まさかの女性の方の展開に驚きを隠せない。


「そう。じゃあ女性側の慰謝料はこの際ナシでいいわ。圭太はしっかりお願いするね」


「えぇ、分かったわ。もしかすると、今後は女性の方の逆恨みの方が怖いかもしれないわ。今はどこにいるの?」


 そんな千佳の言葉に、一緒にいた久実さんが答えた。


「千佳ちゃん、久しぶりね。咲良ちゃんは今我が家にいるから大丈夫よ。ここは警備もマンションより厳重だから」


「あら、久実おば様。咲良は日菱の本宅に居るのね。それなら安心だわ。今後書類や顔を合わせての打ち合わせは私がそちらに行きますね」


「えぇ、千佳ちゃんなら門で話せば入れるようになっているから大丈夫よ」


 なんだか、私ずっとここに住むみたいになっているのは何でかな?


 雄介さんが出張から戻れば、タワーマンションに帰るものだと思っていたけれど。


「浮気相手の女性に関しては日菱が動くから大丈夫よ」


 うん、なにも口を挟まないほうが良さそうだと察しました……。


「それなら、なにか分かった時点でお知らせくださると助かります」


「えぇ、分かったわ」


「咲良。日菱の本宅はすごいところでしょう? 存分に楽しんで」


 そういうと通話は切れた。


 いろいろあったが、雄蔵さん簿手術が無事に済んでなによりだった。



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