第9話

 まずは有名なキッチン用品の専門店へ。


「うちにあるものでは足りないのか?」


 そんな声掛けを頂き、私はニコッと頷いた。


「えぇ、作りたい調理に必要な道具類が少し足りなくて。ここならあると思うので」


 私はハンディーブレンダーやスライサー、電動ハンドミキサーなどを見ていく。


「スライサーにブレンダーも分かるが電動ハンドミキサーはなにに使うんだ?」


「せっかく時間もゆとりもあるので、お菓子作りがしたいなと思って。焼き型もいくつかほしいですけど。完全に趣味の範囲なのでこれは自分で」


 マドレーヌやパウンドケーキにクッキーの型や小さめのシフォンケーキ型などを見ていると、見ているものを端からどんどんかごに入れられていく。


「俺も甘いものは量を食べられないけれど、食べる。だから、これらもこちらで買おう」


 そうしてまずはキッチン用品を多数購入してもらった。


 プリン用の耐熱ガラス容器とか、グラタン用の大き目のガラス容器なんかもあって見ていると、見てる端からサクサクとかごにいれてお買い上げしてくれた。


 これで料理の幅を広げていろいろ作れる。


 私は楽しくなって、気分よく次のお店へ。


 次はなんとタオルの専門店。


 引っ越しの際に本当に必要な物しか持参しなかったせいで、お気に入りのタオルたちは諦めたのよね。


 あいつらに使われたかもと思うと、もう使う気にもならないから良いけれど。


 タオルだけは、今治タオルが好きで愛用していたのでここに専門店があるのを見つけて、すかさず寄った。


「今治のタオルはいいよな」


「そうですよね。吸湿性に優れているし、肌触りも最高なので」


 私の分だけと思っていたら、色違いで雄介さんも購入した。しかも、やっぱりお会計は出させてくれなかった。


「きちんと洗濯して、手入れもしてくれるのだからいいだろう?」


 もう、基準が分からなくなってきたがさすがにここは自分だろうと、女性服のお店に入ると興味津々でついてきた。


 あれ?ここは入りづらいはずでは……。


「あぁ、ここの会社とは取引もあるから存分に選ぶといいんじゃないか?」


 あぁ、取引先か。日菱は紡績関係も扱いあるものね。


 アパレル会社との取引も多いか……。


「流石にサイズ知られたりするのは恥ずかしいのですが?」


「そういうものか?」


「そういうものです」


「じゃあ、あっちを見ている」


 そういうと雄介さんはルームウェアのコーナーを見に行ったので、私はその間に自分の下着を五セット選んで購入した。


 後ろを振り返ると、そこにはなぜかルームウェアを数着買っている雄介さんがいた。


「買ったんですか?」


「あぁ、着心地良さそうなのがあったからな。咲良さん用だ」


 なんと、自分のだけでなく私のまで買ったらしい。


 ここのブランドは、着心地の良いルームウェアが多くてユニセックスで展開しているものもあるのでカップルにも人気があるのよね。


 私は自分の分は確かにここで買っていたけれど、あの厚かましい子が家にいたので基本の服だけしか持ち出さなくてルームウェアも置いてきちゃったんだよね。


 買ってもらえるのはありがたいので、頂きます。


「え?これ全部?」


 思わず聞くと、こてんと首をかしげて肯定されてしまった。


「自分の分も買いません?疲労回復系のルームウェア人気ですし」


 私が言うと、雄介さんも売り場でユニセックスの男性向けを見始めた。


「これ、たしかに良いと聞いていたので買います」


 色違いで、三着まとめ買い。


 一着で私の日給以上が飛ぶのに、ぽんと買うのはやっぱり御曹司だよね。


 金銭感覚が違うわ。


 お出かけの移動手段が、車じゃなくてヘリ使うあたりからね……。


 私の分もショッパー覗いたら色違いで二着。デザイン違いのも色違いで二着と四着も買ってくれていたわ。


 自分の分も含めて、ものの十五分で七着のお買い上げ。


 しかも、私普通にブラとショーツのセットも五セット買っているんだけれど。


 それ以上にルームウェアでものすごい客単価叩き出しているわ、さすが……。


「ありがとうございます。こんなに買っていただいて良かったんでしょうか?」


 調理器具は、仕事として分かるけれど、タオルにルームウェアはもはや業務外だと思うのよ。


「これは、実は祖父からです」


 ん? 雄蔵さんのこと?


「助けてもらったお礼に、今日の買い物は祖父から出ています。今日買い物に行くと伝えたら、これで好きなだけ買うようにと」


 キラキラなプラチナカード。


 日菱の会長だもの。そのカードに利用制限などありませんよね? 知っていたわ……。


「今度、しっかりお礼に伺います」


 そうして、そこでの買い物を終えるといったんカフェで小休止。


「やはりこちらは避暑地だけあって涼しいですね」


「都会はコンクリートで熱風の吹く場所だから。こうした中に来ると、いい気晴らしになるな」


 はじめ、仕事する気だったけれど。どうやらいい気分転換になったようだ。


 そんな話をしながら軽くシフォンケーキとアイスティーを堪能すると再びモールの中を移動。


 好きなブランドで服を買ったり、靴を見たり本当に休日のショッピングを楽しんだ。


 そうして買うだけ買って、新幹線で東京に戻ると、再び日菱の本社ビルからヘリでタワーマンションの部屋へと戻ったのだった。


 今回は支配人さんにも合わず、店舗責任者にも遭遇せず、買い物を達成できたので私は大変満足です。


 見たもの片っ端から買おうとするのを止めるのが、やや疲れたけれど。


 そして、私たちが戻ると再びコンシェルジュから今日も不審者がいたと報告された。


 そろそろ、千佳が準備を終えて動いてくれるだろうからもう少しこの部屋で出来る業務をこなす日々になりそうです。



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