第8話
お好み焼きの準備を済ませて、私は雄介さんの帰宅を待つ間は読書タイム。
準備を済ませて約一時間の時間を経て、十九時頃に帰宅した雄介さんはすでに楽しげな表情を見せている。
「ただいま。もう準備できているんだな。すぐ着替えてくる」
自身の部屋のある二階へ行った雄介さんを見送り、私はホットプレートを温め始める。
この最新プレートは温まるのが早いのでも有名なので、ほんの少しの時間ですぐに温まるので私は焼き始めた。
ジュっといい音がして、焼けてきて匂いもし始める。
お好み焼きの香ばしいにおいを楽しみつつ、私はサクッと焼いていく。
「お、もう焼けるか?」
「えぇ。もう出来ますよ」
そう声をかけて、用意していたお皿に乗せるとお好み焼きソースとマヨネーズに青のり、鰹節をかけて雄介さんの前に置いた。
「さぁ、どうぞ」
出されたお好み焼きを、それは楽しそうに眺めそして食べると目を見開き、おいしいと呟いた。
いいもの食べ慣れているだろう雄介さんに美味しいと言わせることができて、満足していると一言。
「これ、おかわりできるか?」
「もう一枚分は焼けますよ」
「もう一枚、頼む」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
追加の一枚と、私の分を焼き終わってホットプレートはいったん保温に切り替えておく。
「お待たせしました。追加分ですよ」
一枚目と同じように、ソース、マヨネーズ、青のり、鰹節をかけて出すとパクパクと大きめに切り分けて食べ始める。
私が食べ終わる前には、二枚目も食べ終わって満足そうにしている。
「こんなに美味しかったんだな。いままで食べなかったのはもったいなかった」
そんなことを言って、やや名残惜し気にしているのはなんだかちょっとかわいく見えた。
「そういえば、昨日帰りに元婚約者が後を付けていたみたいで。ここにいると思ったらしく、今日もマンション周辺をうろうろしていました。コンシェルジュさんが声をかけてくれたので、無事に遭遇せずに済みました。買い物も代行サービスを使わせていただきました」
私の報告に、雄介さんは顔を上げてすぐに返事をくれる。
「コンシェルジュも、此処の住人が有名人や資産家が多いので警戒は常にしてくれている。そのうえで咲良さんに声をかけ、画像も元婚約者だったら間違いないだろうな。千佳には連絡したの?」
「もちろん。画像も提供してもらってそれを添付して、ストーカーになっているから接近禁止命令お願いできないか相談したら、すぐに対応してくれるって」
もちろん、その後すぐに警察がマンション周辺の見回りに来てくれたから、不審者だった元婚約者も現在は退散した様子だった。
ただ見えない位置にいるだけで、周辺にいないとも限らないのでしばらく買い物はコンシェルジュさんの代行サービスを頼るつもりだ。
「それは良かった。さすが、千佳は優秀だな。最近はめっきり会わないが、千佳は元気にしてるか?」
「千佳は優秀な弁護士で、本当に頼りになるわ。バリバリ仕事もこなして元気ですよ。千佳も私が今、雄介さんのところにいると教えたら驚いていました。幼馴染ですよね?」
「あぁ、千佳のお父さんがうちの顧問弁護士だからね。幼いころから知り合いだよ。小学校までは一緒だった。元気なら良かった」
微笑んだ表情は穏やかで、千佳との仲の良さを伺えた。幼馴染って、やっぱり特別なのかしらね?
そんな会話をして、雄介さんは本日も再び海外とのウェブ会議のために自室へと向かった。
一応、カフェラテを入れると喜んで持って向かったので、今後は会議の時は飲み物を用意しておこうと決めたのだった。
小一時間ほどすると、雄介さんは部屋から出てきて唐突に言った。
「明日、半年ぶりに丸まる一日オフになった。咲良さん、出かけるから。明日は九時出発なのでそれに間に合うように準備してくれ」
「どこに行くんですか?あまり出歩かないほうが良いと思うんですけれど」
私の問いかけに、雄介さんはニヤッと笑って言った。
「ストーカーさんも簡単には追いかけられないところに、追いつけない手段で行こうかと思う」
とっても楽しそうなので、まぁいいかと思っていた私を翌日良くない!と自ら突っ込む羽目になった。
八時には起こしていつものカフェラテとフルーツヨーグルトを食べた後、外出の準備をして向かった先は二階にあった謎の小階段とドアの向こう。
ドアを出た先はヘリポート。
そこには一機のヘリがすでにスタンバイしており、行くぞと乗り込んでいく雄介さん。
移動手段がヘリの時点で、すでに普通じゃないお出かけの開幕となった。
タワマンの屋上へリポートは、なんと日菱家の専用ヘリポートだそうで。ここにも専用エレベーターで上がれるらしい。
雄介さんは自宅がヘリポートの真下なので、そのまま上がれるようにドアを付けたんだとか。
やっぱり、お出かけの移動手段からして住む世界が違うよね……。
お出かけ方法も、目的地もなにも聞いていなかったというか、楽しみにしていてくれと教えてくれなかったがはたしてどこに行くのか。
ヘリが飛び立つと、向かった先は日菱の本社ビルのヘリポートでした。
都会のど真ん中の本社ビルにたどり着くと、すぐの駅に向かい今度は歩くと次は新幹線のグリーン車へ。
そうしてたどり着いたのは避暑地にある大型ショッピングモールでした。
そういえば、此処の開発も日菱商事だったなと思い出す。
「ここは数年前に開発したが、今もまだ開発中の区画もあるんだ。今日はその進捗の確認と共に、咲良さんの好きなものを買うといい」
ん? 今日は休みのはずでは?
私の思っていたことは顔に出たらしい。
「休みでも、というか休みだからこそ現地も油断しているからな。抜き打ちチェックにちょうどいい」
雄介さん、それは休みではなく立派にお仕事です。
もう、立派なワーカホリックですよ……。
雄蔵さんが心配するわけよね。こんな状態じゃ……。
私と生活を始めて、食生活が改善されたのもあって顔色も良くなったし、体調もいいはずだけれど。
休みも仕事に変えてしまうのは、やりすぎの範囲だと思うのよね。
「雄介さん。今日はお休みのはずでは?なら、私の買い物に付き合ってくださいね?」
にっこり微笑んでいったのに、のちに聞いたら後ろに虎がいたと言われました。
まぁ、絶対休ませて仕事はさせないと意気込んでいたからかもしれない。
「分かった。でも、支配人クラスの人材に見つかると仕事の話になるのは許してくれ」
まぁ、そこは仕方ないわよね。偶然会うのは不可抗力だもの。
開発運営に関わるトップが来ていて、会ったのになにもなしではお互いに居られないでしょうし。
「さすがに、買い物で回っていて出会って話すことを止めたりしませんよ」
そういうことで、私と雄介さんはこの大型モールを見て回ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます