第7話

 翌日、私は週末も関係なく仕事の雄介さんに本日もフルーツヨーグルトとラテの朝食を提供し仕事に送り出すといつも通り家事をこなし、買い出しに出掛けようかと専用エレベーターでエントランスまで降りるとコンシェルジュの一人に声を掛けられた。


「小野田様、お出かけですか?」


「えぇ、調味料と昨日買いそびれた食材を買いに行こうかと思いまして」


 今日雄介さんは休日出勤のため、会食等もないので夕飯はうちで食べると言われていた。


 そして先日、お家掃除で整理中に全く使われていない高性能で有名なホットプレートを発見していた。


「これがあれば、美味しいお家焼肉もお好み焼きも思いのままですね!」と私が言うと、自分では料理が出来ないから宝の持ち腐れだなと雄介さんは言った。


 ただ、今朝の夕飯要請でその存在を思い出したらしい。


 せっかく家で食べられるなら、今日はお好み焼きが食べたいと言われたので急遽買い出しに出ることにしたのだ。


「昨夜小野田様のお戻りの際に、不審人物が敷地内とエントランス周辺を伺っているのが防犯カメラに残りまして。実は本日も不審者が昼頃から映っております。いま、外出するのは控えたほうがよろしいかもしれません」


 え?この高級タワーマンション付近をうろつく不審人物が昨夜に今日も連続で現れるなんて、たしかに怪しさ満点だし、出かけないほうが無難かもしれない。


 足もまだギプス固定されていて、歩くのも普段より遅いし。


 雄介さんにも、遠慮なくコンシェルジュのお使い代行を使ってもいいと言われているし……。


「そしたら、こちらのメモにある品の買い出し代行お願いできますか?」


 私はコンシェルジュさんに買い物メモを渡すとニッコリ微笑んで請け負ってくれた。


「もちろんでございます。あぁ、いまもカメラに不審人物が写っているとのことですが画像確認しますか?」


 確認するのも嫌なものだが、誰だかわかった方が対処もしやすいはず。


「見せていただけるなら、ぜひ」


 私はそうして、現在のマンション付近をうろつく不審者をタブレットに転送された画像で確認し、がっくりと肩を落とす羽目になった。


 あのバカ元婚約者、こんなセキュリティー万全のマンションをうろつくとか阿保過ぎないだろうか……。


「確実に顔を合わせたくない人物だったので、ここで声をかけていただき大変助かりました。一応こちらでも、ストーカーとして届け出て接近禁止命令を出してもらおうと思います。この画像コピーでいいのでいただけますか?弁護士の先生に送りたいのですが」


「では、会社の方に確認次第ということで。お買い物の荷物と共に、その時にお話させていただいてもよろしいですか?」


「もちろんです。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」


 まさか、昨日の夜にあとを付けていたなんて。


 まぁ、向こうの話は借金の返済と慰謝料の減額以外ないだろうけれど。


 ここは一円たりとも譲る気はないので、千佳にきっちりやってもらおう。


 千佳には手間を掛けさせているから、夏海ちゃんも好きなタイプの美味しそうなお菓子を後で手配しておこう。


 バカの癖に行動力だけは人一倍あるのが厄介ね……。


 私は深いため息をこぼしつつ、買い物を委託して部屋に戻ることにしたのだった。


 結果としては二時間ほどでお買い物の荷物と共に、住まいへの付きまといという新たな迷惑行為の証拠を手に入れた私は千佳に連絡を入れることとなった。


 まったく、昨日の今日で本当に有り余る行動力だと感心する。全く、欠片も、褒めてないが。


「千佳、昨日はありがとう。さっそくなんだけれど、昨日の千佳の忠告が現実化したわ」


「あら、やだ。まさか、もうストーカー化しているってこと?」


「その通り。昨日の帰りにはすでにつけてきていたみたいで、今日の昼にもすでにタワーマンションの周囲をうろついて不審者扱いされていて。外出しようとしたら、それに気づいていたコンシェルジュさんに声をかけてもらって、遭遇が回避されたところよ」


「まぁ、立派なストーカーへクラスチェンジしたのね。誰も、歓迎しないけれど」


「ホントにね。それで、接近禁止と経緯の話を代理人で話してもらうために証拠の画像を頂いたから。いまから、千佳のパソコンに送るわ」


「あら、さすがは咲良。よくわかっているわね」


 実は、心理学に経済学の合間に司法の授業も千佳のところでたまに聞いていたので、法律も少しだけかじっている。


 まぁ、資格もないので講義を聞いていたくらいのほんのちょっとした知識くらいだが。


 知識があると行動も変わるので、勉強していてよかったなと改めて感じるものだ。


 電話をつなぎつつも、手元のパソコンに取り込んだ画像を千佳へと送る。


「あぁ、メール来たわ。今開いて確認するわね」


 少し待っていると、千佳は驚いた様子で答えた。


「やっぱり、有名人や資産家の住むマンションのセキュリティー画像は映りが鮮明ね。立派な証拠になるわ。この画像と共に、警察に事の経緯と共にストーカーされているので接近禁止令の要請をお願いできるわ。すぐに対応するから、安心して頂戴」


「ありがとう。またまた手間を増やして、ごめんなさい。でも、千佳が居てくれて私はすごく助かるわ」


「ふふ、どういたしまして。夏海が咲良ちゃんまた遊んでねって。優しくて綺麗なお姉さんだから、咲良のこと大好きなのよね。選んでくれるお土産のチョイスも、夏海の好きなテイスト掴んでくるから」


「夏海ちゃんが喜んでくれるなら、これからも良いチョイスができるようにしないとね。それじゃあ、お願いします」


 こうして、電話を切りパソコンも片付けると私は夕飯の仕込みを開始する。


 お好み焼きは生地の粉に出汁、こだわりだすとキリがないのだけれど。


 むかし、夜店で食べただけだから食べてみたいと言われたら、美味しいもの食べさせたくなるじゃない?


 そんなわけで、私は工夫を凝らしたお好み焼きを作るべく準備を始めたのだった。



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