1話

 緑豊かなスローガン国に生まれた、私はルルーナ・ダルタニオン公爵令嬢だ。その、私の始めての死は王立学園を卒業して十八歳になったばり。数日後に控えた結婚式の話をしようと屋敷へ呼んだ、婚約者のカサロに毒を盛られた。


 この、婚約者カサロとの出会いは七歳。

 その日は私の誕生日だった。


 庭園に準備された誕生会の会場で、主役の私は好きな水色のドレスを身にまとい、訪れた来客に挨拶をしていた。その挨拶をしにやって来た、一人の男の子に瞳を奪われる。


(この黒髪の男の子、あの子に似ていない?)


 小さな手を胸に置き、ドキドキと早くなる鼓動を抑えた。




 私がその男の子と出会ったのは二年前の王城で、五歳のとき。

 幼い私が覚えているのは黒髪で優しい男の子、ただそれだけ。彼がどこの貴族なのかも、名前も知らない。

 

 彼との出会いは。ルーラお父様に着いて行った王城の書庫で出会い、話しているうちに仲良くなって、手を繋いで庭園の植物の話をしながら歩いた。そして、いつの間にか眠ってしまったらしく、次に目を覚ますと帰りの馬車にお父様と乗っていた。


『……あれ、ルーラお父様? …ここは馬車の中?』

 

『あぁ、私が陛下との話が長引いたからか。ルルーナは待ちくたびれて、庭園の椅子で寝ていたよ』


『え、庭園の椅子で寝ていた? じゃお父様、寝ていた私の近くに同じくらいの歳の、男の子はいなかった?』

 

『男の子? ルルーナの側にはメイドが一人いたが』

 

『え、メイドだけ……』


 彼と手を繋いで庭園を植物の話をしながら、お散歩したことは覚えている。

 色んな植物のことを知っていて、とても優しい男の子だった。


 もう一度会いたいと願ったが。

 あの日以来、お父様について王城に行っても、一緒に過ごした男の子には会えなかった。




 ――奥の席に座る男の子が、あの子だったらいいのにな。


 男の子が誰なのか聞いてみようと、私は思い切って誕生会に来ている黒髪の男の子に「昔、私と一緒に遊んだ事はない?」かと聞いた。その男の子は驚いたが、私を見てニコッと笑ってくれた。


(私を見て笑ったわ。この子に間違いない)


 幼い私はあの日の彼だと信じて、伯爵家カサロ・ローリングを婚約者へと選んだ。婚約者となったカサロは、私に優しくしてくれた。


『ルルーナ嬢、庭園のバラが見頃だよ。庭を散歩しないかい?』

 

『えぇカサロ様、行きましょう』


 私を第一に考えてくれる、優しいカサロに私はのめり込んでいった。だから噂で聞いた、彼と仲が良い幼馴染のリボンに嫉妬した。


(幼馴染のあの子を、カサロから離したい)


 それから私は、彼女にたくさん悪いことをした。

 たが、カサロはこの事を知っても怒ることもせず、相変わらず私に優しい。

 

『ルルーナに誕生日プレゼント、君が欲しいと言っていた花の本を見つけたよ』

『嬉しいわ。ありがとうカサロ』

 

『いいんだよ。僕の誕生日に、二人で住む屋敷をもらったからね』


 嬉しい話ばかり、だから私はカサロが欲しいと言った宝石、領地、鉱山、別荘と彼が欲しがるもの全てをプレゼントした。


 ――こんな物で彼の心が手に入るなら、安いわ。


 だけど、カサロからのお返しのプレゼントは毒入りのクッキー。

 学園卒業の後、いつもと変わらない様子で話があると私をお茶に誘い、笑顔で毒入りのクッキーを食べさせた。


『ルルーナ、ここのクッキー美味しいよ』


『え、ほんと? カサロが私にクッキーをくれるなんて、ありがとう。いただきますわ』


 貰ったクッキーをかじった私は喉に違和感を覚えた。

 その喉の違和感は、じわじわと焼けるように熱くなっていった。


 ……喉が焼ける? く、くるしい。


『え……な、――あ、ああ、な、何これ? ……ゴホッ、ゴホッ、え? カ、カサロ、このクッキー、どうして? あなたは私の事を愛していると……い、言ってくれたじゃない?』


 バラが見渡せるテラスで私は血を吐き、カサロが好きだと言っていた、水色のドレスが真っ赤に染まる。喉は熱く咳き込み、倒れ込む私を非情な表情で見下ろすカサロ。


『ハハ、即効性の毒はいいな。君の両親も簡単にやれたよ』


 病気で亡くなったのだと思っていた私の両親も、カサロは同じ手口で、殺していたと話した。


『やっと君の悪い時間は終わった。ルルーナ、僕は君の初恋の人じゃないんだ。――ただ金のため、君に嘘の愛の言葉をささやいた。君が愛するリボンに悪さをはたらく姿を、僕は我慢してみていた』


 カサロは冷たい瞳で、私を睨みつけた。


『……はぁ、今まで辛かった。君に触るのも、話をすることも、そばに居ることも全て嫌だった……でも君のおかげで僕達は幸せになるよ、おいでリボン』


『はい、カサロ様』


『可愛いリボン。こんな可愛いリボンに悪さをした、君のことは許せない……でも、それもしまいさ。君が死ねば、僕が公爵がとなり、愛しいリボンと幸せになれる』


 カサロは権利書を見せながら、テラスの床で毒で息が荒く目もうつろになった私を笑い、カサロはリボンにキスをした。


 ……これが、私の一度目の記憶。

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毒、毒、毒⁉︎ 毒で死んでループする令嬢は知らないうちに、最強の魔法使いに溺愛されている。 にのまえ @pochi777

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