2章
自宅へ戻ると、パソコンに一通のメールが届いているのに気がついた。
『いつも【
オーナー芳之が生物を出品するのは初めてだったため、かなり驚いた。それも生死不問。今までのオークションはまだ生温い方で、ついに闇オークションの闇部分に踏み込む時がきた、と思い唾を飲み込む。怖さもあるが、それと同時に興奮している自分もいたので、熱を冷ますべく早めに眠りについた。
ついにやってきた闇オークション当日。会場へ向かう前、芳野に会うため喫茶店で一服したが、その姿は見当たらなかった。
(今回のオークションで気にいった動物でもいたら、連れて帰って芳野君にも見せてあげよう……。何が出品されるかわからないが、見せたらきっと驚くだろう)
考えながら会場内を彷徨いていると、向こうから来た老人と肩をぶつけてしまった。
「おっと、失礼したね……。おや、そのブローチ、【深海世の涙】だね? 懐かしいな」
「いえ、こちらこそ……。これをご存知なのですか?」
「ああ、いや……。まあ、私が出品したのでな。身分を隠しているんだ、内緒にしておくれ」
自身をオーナー芳之と明かす老人は嬉々として語る。
「確か、3年前に出した物だろう? こんな形でまた見れるとは思わなかったよ」
「初めて参加したオークションで一目惚れしたもので……。大切に使わせて頂いてますよ」
「そうかそうか。今日のオークション品も良いものを揃えてるからね。今回は大物も出しているから、是非楽しんでいってくれ!」
そう言い、芳之は満足気に去っていった。
『ご来場の皆様、お待たせ致しました! これより、オーナー芳之による限定オークションを始めさせて頂きます! 今宵のメインは生物、生きていようがなかろうが特別な一品となっていますので、この一時を忘れることが御座いませんようお楽しみください!』
アナウンスが流れると同時に、さっそく一品目が運ばれてくる。
『始めの一品は【極彩の歌姫】になります! 南アジアに生息する稀少なインコで、羽を広げた際に七色の美しさを発揮します。もちろん鳴き声も、歌姫の如く可愛らしい音色を聴かせてくれます! こちらは500万から始めさせて頂きます!』
500から1000、3000万と大きく金額が変わっていき、ただその光景を見ているだけでも胸が高鳴っていくのが分かる。自分だけでなく、他の参加者も静寂を保ちつつ、熱が高まるのを抑えられない様子が見てとれた。そうして、始めの一品は5000万で落札された。
その後も、生きた動物や剥製された動物が競りに出されては高い金額で落札されていく。ひそひそと、「今回のは気合いが入っているわね」と、「参加するだけでも許されるんだよな?」と話し声が聞こえる中、やはり話題になるのは目玉商品のことだった。
「これだけ稀少な命が競りに出されてんだ、目玉のもかなり価値のある動物なんじゃないか?」
そんな一言で、周りの目つきも次第に変わっていく。
『続きましては、【紺碧の天使】! こちらは5000万から始めます!』
青く大きな蝶の標本が、照明の光で照らされる。美しい。この手に収めて、気が済むまで眺めたいくらい美しかった。
「3億で」
『3億! いきなり3億が出ました! 他の方はいらっしゃいませんか!?』
カンカン、とハンマーの音がしてから、自分が落札したことに気がつく。「しまった」と声を漏らすが遅かったようだ。スタッフから確約の書面を渡される。今日の買い物はこれまでにしておこうと反省思った矢先だった。
『続きまして、本日の目玉であり、最後の一品! 【無垢の器】でございます!』
ガラガラと音を立てて運ばれたのは、顔を隠され、椅子に縛られた人間だった――。
収集品の行先 春雪 @nayu_ta10
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