収集品の行先

春雪

1章

 大通りから外れ、静かな路地裏にある寂れた喫茶店にて、先日買い取った一品を眺める。数少ない窓から零れる陽の光に当ててみては、ぬるくなった珈琲をお供にまた別の角度から眺めていると後ろから声がした。


「今度は何に見惚れているんですか?」


 にっ、と微笑みながら彼が近づいてきた。少し前に入ってきたウェイターの芳野よしのにすっかり懐かれてしまった私は、軽く笑いながら一品を見せる。


「綺麗なネクタイピンだろう、今では入れなくなった鉱山から見つかった宝石が埋め込まれているんだよ。ほら、角度を変えると輝き方が変わって面白いだろう」


 「へえ」と単調な相槌をしたが、興味を隠しきれていない芳野は私の手元をしっかり覗き込んだ。初めて会ったときも同じような近づき方をされたな、と思い出して口元を緩ませた。

 初めこそ彼は無愛想だったが、いつものように収集品を眺めていると、頼んでいない珈琲を持ってきてはちゃっかりその品を見てしまう程には好奇心を隠せない子だった。

 気に入っているオーナーが、闇オークションで出品していた装飾品や骨董品などを見せる日が続く内に

「おじさん、また何か買ったんですか?」

「次は買わないって言ってたのに」

と茶化すくらいには心を開いてくれたので密かに好意を寄せていた。


「にしてもおじさん、毎月来る度に珍しい物見てますよね~。それも高価そうなものばっかり……。もしかしておじさん……」


 そう言いかけて黙ってしまったので、少しドキリとした。今となってはどうとも思わないが、密売品に手をかける奴になんて近づかないのが常識だろう。

(もし気づかれたら、もう彼は私に近寄らなくなってしまうだろうか)

なんて考えていると、そんなことを忘れてしまうような続きが遅れてやってきた。


「おじさん、実は隠れた名作家さんだったりして!」


 うんうん頷きながら、少し自慢げな目線を送ってくるものだから可笑しくて大笑いをしてみせた。流石に芳野は恥ずかしくなったのか、拗ねた態度でキッチンへ戻ったきり、その日は会計まで顔を出すことはなかった。


「まだ怒っているのかい?ふふ。ならばお詫びにこれをやろう」

「なんですか。僕はキャンディで上機嫌になるような子供じゃないですよ……って、これ、さっきのネクタイピン? 駄目、頂けませんよ」

「いいんだ。私はもう満たされてしまったからね。捨ててしまうより、も似合う者の傍にある方が良いだろう。それでも要らなければ、売ってしまっても構わないよ」


 強引気味に制服の胸ポケットにネクタイピン差し込んで店を出たので芳野は慌てていたが、扉を閉める時に再度目をやると、幸せそうな顔で胸ポケットを見つめていた。

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