第9話 エルフの集落奇襲準備

「もしかして、元帝国軍魔導部隊隊長で勇者パーティ所属のジョセーヌさんですか」


 私の顔は引きつってないだろうか。少し不安だ。

「ええ、間違ってないわ」

「いつからいたの?」


「ついさっき、あなたがロックトータスを倒すところから見てたわ。あなたは相変わらず魔力量が多いわね。将来はあっという間に私なんか超えるわ」

「いえ、そんな私も早く姉さんみたいになりたいよ」


「でも相変わらず、魔力操作はいまいちだわ。

それじゃあすぐ魔力が枯渇して何もできなくなるわ。

それに比べてそこのソラって子、魔力はそんなにないけど魔法の使い方が繊細でさっきのストーンバレットもうまく中心に集めて土の密度が濃かったわ。

とても魔力効率が良くてすごいと思うわ」

「今のストーンバレットというんですか」


「知らなくてやったの。

それもすごいけど実はストーンバレットにはまだまだ改善方法があるのよ。

それより、人間が何でここに?」

「パトロール隊のリンが助けられたからなの」


「へえ、そんなことがあったんだ。

助けてくれてありがとう。

君たち人族とはこれから友好関係を保ちたいと考えているよ」

「それは今までの中立を放棄して人とともに魔族に攻めるということですか」


「私はそのつもりだけど、長老たちは頭が固いからね。

そう素早く動いてはくれないかな。

それじゃ私たちは長老たちの方に出向くから。

それが終わったらまた戻ってくるからね。

ラン、ちゃんと授業を受けなさいよ」


 会話をしていたらリンがこちらまで戻って来た。

「私が長老のいる議会集落へ案内するわ。

ラン、そろそろジョセーヌさんを解放してあげなさい」

 そう言って木々の上を二人はすばやく移動していった。




 長いテーブルの上でエルフの長老たちが座っている。

「勇者パーティ所属ジョセーヌただいま戻りました。」

「ご苦労だった。状況報告を。」

「人族の中でも最大国家のラーベル帝国は自軍とギルドの依頼を受けた勇者パーティを主戦力として魔の山脈の中央にサラマンダーを用いて穴を形成、魔族ミラを打ち取り、その後も魔族領を進行しています。」


「これまでの人と魔族の戦争は魔の山脈の北レーベル川で川を挟んでのにらみ合い、

南の魔の森ではどちらも攻撃は不向きで先代の頃からの意向により私たちエルフが生息域を確保するため両者の潜在的脅威を通さないことで、

南北いずれの戦線も攻撃側が不利となり、すべての種族が安定した平和を享受できていた。

だが今回人側がそれを破壊し魔族領に侵略している。」


「待ってください。

今までエルフに組織的な攻撃をしてきたのは魔族です。

人間は少数による金品狙いの攻撃しかしてきていません。

我々は人の方に味方するべきです。

私たちがほぼ独占している混合魔法を教えることも検討すべきだと思います」


「人間側が圧倒的な勢力になれば少数民族のエルフの方に矛先が向くかもしれん。

奴らは同じ民族同士で違う国というだけで戦争をするほどなんじゃぞ。

じゃからこそ勢力均衡を保つことが大切なのだよ」


「しかしそれでは未来の世代にわたって、血が流れます。

私たちエルフは数千年も生きられるので気長に事を構えられるかもしれません。

しかし人は50年から80年くらいしか生きれません。

自分たちの子供の世代が心配で争いをなくしたいという気持ちも理解できないでしょうか」


「どちらか一方がなくなれば戦いがなくなるいと言っているようなものだ。

それを真の平和だとは思わん。君はちと人間側に肩入れしすぎではないか」

「いえそういうわけでは」

「とりあえず今後の方針は変わらん。

この機会に魔族領に人側が協定を破って強力な魔法使いを送り込むかもしれん。

今まで以上に監視の目を強化して・・・」



「ジョセーヌ、長老たちはどうだった?」


 再び学び舎集落まで移動していた。

「やっぱり駄目でしたよ、リン。あの人たちに大きな変化を選ぶ決断はできないよ」

「自分たちに危害が及ぶまで何も変わらないよ。

エルフは長生きしすぎるからずっと老人が権力を握っていて若い世代の意見を取り入れるのが難しくなっているんだよ」


 話をしていると雨が降っていた。

その勢いはどんどん強くなっていた。



「今雨が降っていますよね。

それもかなり激しく降っています。今攻め時ではないですか」

「そうだね。でも今はジョセーヌもいるらしいね。

かなり危険なかけになると思うけど」

「大きな脅威も排除できるという絶好の機会ととらえられないでしょうか」


「いささか私情が混じっていると思うけどなー。

まあどちらにしろもうすでに方針は決めている。

よかったね。

出発する前にソフィーには私たちが潜入しているころに大雨が吹き荒れるから、その時にエルフに奇襲を仕掛けるように言ってある」

「この地域の天気をあらかじめわかっていたのですか?」


「まあちょっと詳しくてね。

可能であればせん滅、無理な場合のプランも考えているから君は心配する必要はないよ。

先ほどジョセーヌとリンが向かった集落も長期間滞在していた場所があったことから把握している。

まあ主に動くのはバンとソフィーかな。

私は吸血鬼ってだけで、いろいろ能力はあるけど日光も苦手な引きこもりだし戦闘向きじゃないから」


 準備は整った後はこちら側が奇襲するだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る