エルフ編

第3話 変身能力

 あれから二年時間がたった。

サラマンダーに開けられた魔の山脈の穴は大きすぎて山の天井が崩れ、大きなU字型の谷になっている。


 元ミラ領は人族に占領され、周辺の魔族が防御にあたっている。

主に指揮を執っているのはキングリザードマンのリュグだった。

二足歩行で2mのトカゲに似た姿をしているリザードマンよりさらに2倍ある巨体だ。

シャミ―ニアはその姿を前にして少し緊張してきた。

 あの日の出来事以降リュグが仕切っている砦で暮らしている。



「お前の母親はずいぶんとあっけなかったな」

ずいぶんと低いリュグの声が響いた。


「人間どもは日々戦術を進化させている。

魔物を指揮できる魔族も少ない。

人は数億人この世界にいるらしいが、魔族は高々1000人未満。

知能はないが個体数が多い魔物を用いて互角に渡り合っている。

我々魔族は今や一刻の猶予もないのだよ」

「はい、理解しております。私も微力ながら戦いに参加したいと考えています」


 数十秒間ほど彼は黙っていた。


「実は魔王軍の諜報・妨害工作担当の指揮官から、君への招集がかかっている。入りたまえ」

「失礼、やあ私はサミエラ、半人半魔族と呼ばれているのは君かね?」

「はい」


 そこにはほとんど人間の少女の見た目をしているがニコニコしている口をよく見ると二つの大きな歯が見え隠れしていた。

隣には大きな男の姿が見えた。

こちらは人間にしか見えない。


「私はサミエラ。

吸血鬼だよ。

さっそくだけど君のお母さんは食った生物に姿を部分的ないし全体を変えることができたと聞いているが、君にはその能力はあるのかね?」

「捕食した生物の能力を引き継げるのは彼女特有のものです。

私にはその能力はありません。

ただ生前私には生前母が食った魔物などに変身することができます。

しかし、微量ですが魔力を消費するため、

生まれた時の人に角と翼が生えた姿で今まで過ごしております」



「生前君の母親は人を食っていただろう?

今回は出来るだけ人に近づけさせてほしい。

君には人間側への潜入任務を任せようと思っている」

「人側にですか?うまくできるとは思えません」


「まあまあ、そう言わずに。

試しに全身を人の姿に変えるようにイメージしてごらん?」


 言われた通りイメージしてみる。

背中にある翼や頭にある角が縮んでいる気がする。

窓を見た。反射し見える姿からそれらは消えていった。

特徴的だった白い髪や赤い目も人では普通の黒色に変わってきている。


「おお!もう人にしか見えなくない?」


 ふと、さっきまでいる人間の姿の大男が気になった。

「ちなみにそこにいる人の形に見える男の人は?」

「ああ、こいつは狼男のバン。同じく今回の任務に協力してもらう予定だよ」


 彼は私に対して会釈するだけだった。

「私よりもあなた方の方が完璧に潜入できると思いますが?」

「いやーそうでもないんだよねー。

彼は寡黙でお喋り下手だし、私はただの管理するだけみたいな感じだし、

その点君は変身の訓練をしてしまえば大丈夫そうだし、主に人との離す担当は君になるかな」


 なんか面倒ごとを全部押し付けられそうな気がするが。

「で、でも人と私たち魔族では少し雰囲気や性格が違うと聞いています。

その辺は大丈夫なんでしょうか?」

「君なら大丈夫なんじゃないか。

魔族は心の奥底でどこか冷淡な所はあるが、君は何か見ていてもどこか甘いところがあるというか、おおらかな感じがするというか、周辺の魔族からそろって人間ぽいって言われているよ。これはお母さんの無念を晴らすことにも一躍買うことができるんじゃないかな?」


 数秒考えてから頷いた。

「分かりました。今回の任務引き受けさせていただきます」

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