第2話 開かれた世界(後編)
「いいかい。大雑把に魔の山脈を挟んで西側は人が、東側には魔族が住んでいる」
うんうんと頷いた。
「争いが起こる場所は魔の山脈の北端と南端。
他は魔の山脈が壁のように隔てているからね。
北端はレーベル川を挟んで西側が帝国側のラルゲン侯爵、東側は先日会った魔王軍のスカルだ。
南端は魔の森となっており、大群が通れず少数精鋭同士の小競り合いが起きている」
自分とはあまりかかわりのないことだから正直今はあまり頭に入らない。
「そして、私たちの領地は魔の山脈の南北の中央の麓に接している所にあるため、人との戦域からは遠い。
よく援軍として呼ばれることはあるけどね」
「じゃあここはずっと安全?」
「そうだよ。ここは比較的安全な場所だよ。
でもシャミもいつか私を引き継いで魔王軍の魔物を率いる指揮官になるんだよ。
しかも私と同じようにたくさんの魔物の血が混じっているから多種類の魔物を率いれるよ。
基本的に魔族の指揮官は同一の種類の魔物しか率いることのできないけどね。
そのためにこれからも私の話を聞いて早く一人前になるんだよ」
「うん、分かった。でも今日は早くお母さんのご飯を食べたい」
「しょうがないなー。今日は早めにご飯を食べるとするか」
椅子に座って、お母さんの料理を作っている後姿を見ている。この何気ない時間も私は好きだ。
ふと西側の窓を見てみるといつも通り変わらず存在する壮大な魔の山脈の下の方に赤く光った点が見えた。
その点は徐々に大きくなり、大きな炎の光線となり私たちの住む館めがけて飛んできた。
全ては一瞬の出来事だった。
お母さんは私を抱きかかえて、館の壁に突進して壁を壊して外に脱出した。
後に残ったのは崩壊した館だった。
そして、再び魔の山脈の方に目を走らせると魔の山脈にぽっかりと大きな穴が開かれていた。
山脈の向こう側が見えた。
そこには燃えている巨大なトカゲのようなものと人の大群が見えていた。
「人族ども、サラマンダーを利用して魔の山脈に穴を開けた?あれを操れる物が人間側にいるのか」
「お母さん、人が、大勢の敵の大群が穴を通ってここに攻めてくるよ!」
「大丈夫、あの大きな穴はサラマンダーの熱光線で開けられたものだ。今は熱すぎてとてもじゃないが人が通れる状態じゃない。
それにあの大きな熱光線は周辺の魔族にも見えたいるだろう。
人が進軍する前に防御が固められるだろう」
お母さんは理論的にすぐに安全になると説明してくれたが、不安で仕方がなかった。
南と北の戦線はどちらも膠着状態だったため、打開策として中央にある魔の山脈に穴を開けて第三戦線を作ることにしたのだろう。
私の館の前にいた魔物の大群の半数以上があの熱光線で吹っ飛ばされた。
サラマンダーの熱光線は長く打たないほど熱袋にエネルギーがたまり威力が増す。
あれほどの威力は当分打てるものじゃないだろう。
残りの魔物たちに穴の前で防御するように指示した。
周りの魔族が一刻も早く来ないとシャミも私も無事では済まない。
そう考えを巡らせていた時に穴の中を凄まじいスピードで移動している人が6人いた。
何度か戦場であったことのある勇者一行たちであった。
おそらく熱に対する耐性を魔法で上げて少数精兵の部隊だけ先に手薄になった戦線に差し向け突破を図ろうという試みだろう。
穴のこちら側の出口に到達した勇者一行に魔物たちが攻撃を仕掛けた。
正面からの攻撃は剣士ランドールが大きな盾で防いだ。
側面には回り込んで攻撃されないように勇者の俺は右前に、大魔導士でエルフのジョセ―ヌは左前に火魔法のファイアボールを放った。
上の方から大きなコウモリの姿をした魔物の群れが攻撃を仕掛けてきたが、後方にいた龍使いのリエルが石魔法のストーンバレットを解き放つ。
小さな石粒が大きなコウモリの体を貫いた。
今回の俺たち勇者パーティの目標は侵入した領土の魔族ミラを倒すこと。
多種多様の魔物を操り固体自身の脅威度もかなり高いため、本作戦の最優先討伐対象となった。
ミラ殺害後、十分冷めた穴から帝国軍兵士が進行する手はずとなっている。
残された時間は少ない。
魔物たちは蹴散らされ、勇者一行は一直線上に向かってくる。
シャミだけでも逃がさなくては
「早く逃げて、私も後から行くから」
「嫌だよ、お母さんも一緒に行こう」
「後で会いに行くから、急いで走って!」
シャミは勇者一行がいる所とは逆方向に一目散に走りだした。
数秒後勇者一行が目の前に対峙していた。
前列にいる3人のうち左にいるのは勇者アレン。
魔法から剣術まであらゆる能力がある程度高く、このパーティの器用貧乏に値するだろう。
真ん中は剣士ランドール。
大男で腕力があり剣と盾の扱いがうまい。
彼の持っている盾は魔法効果を無効化する特殊なものだと記憶している。
右にいるのは魔導士ジョセーヌ。
エルフの中でも優秀な魔法使いのため勇者パーティに誘われたと聞いている。
後列の左にいるのは龍使いのリエル。
魔物使いの適性が高くその中でもドラゴンも扱えるほどだと聞いている。
おそらくあのサラマンダーを使役したのも彼女だろう。
白くて長い髪と青い目が特徴だ。
魔法の適性も高い。
後列中央は聖女マリ。
彼女は治癒魔法を専門とするヒーラとしての役割を果たしている。
後列右側は大賢者ロンメル。
老人の見た目だがこれでも昔は帝国の宮殿の守護を任せられた宮廷魔導士だったらしい。
ジョセーヌの師匠だという。
勇者パーティの六人は豪華なメンバだ。これら相手に時間稼ぎをするだけでもかなり至難の技だろう。
「ジョセーヌ、後ろにいる魔族の子供を追え。」
勇者アレンが言った。
ジョセーヌが右側に迂回し、シャミを追おうとしている。
その魔導士に右手を向け魔法を放とうとした。
勇者はものすごい速度で私の右手に対して剣を切りつけてきた。
右手は切断されたが、これくらいは回復魔法や魔族の回復能力で何とかなる。
さらなる追撃を避けるため翼を用いて上空に逃げようとしたが、後方にいたリエルとロンメルの放ったストーンバレットが両翼を貫いたことで落下した。
地面に倒れた状態から間を置かずにアレスが剣を振るってきた。
切断された腕をリザードマンの腕に変えて防御に用いた。
硬い鱗により深い傷は防げた。
ジョセーヌを取り逃がしてしまった。
左手で多数のファイアボールを敵陣後方に放った。
後方にいた三人は一か所に集まりその前に戦士ランドールが立ち、盾で攻撃を防いだ。
地面に倒れて右手で剣の攻撃を防いでる状態で態勢を変えるためにも、喉を火龍に変え火炎放射を放った。
勇者アレンは直撃を免れるため後方に退いたが、ところどころ火傷した状態となっている。
「ヒール」
聖女マリがアレンを回復させた。
やはり後方にいるヒーラと遠隔攻撃要員の3人を最初に倒すべきだが、そう簡単に攻撃させてくれない。
再び再生した翼を用いて空を飛んだ。
再びストーンバレットの追撃があったが、高速飛行で回避した。
その後大賢者ロンメルが風魔法のトルネードを引き起こした。
竜巻の中に巻き込まれた。
風の流れが乱れて飛行中のバランスがとりにくい。
龍使いのリエルは余裕そうな笑みを浮かべながら言った。
「ファイアートルネ―ド」
火魔法を竜巻に加えた。炎の竜巻となり私の全身を覆った。
ひどい火傷をした状態で地面に横たわっていた。
急いで起き上がろうとしたが戦士ランドールの大剣が私の左足を刺した。
勇者アレンが剣を振るおうとした。
右腕で防ごうとしたが、右腕が吹っ飛ばされた。
右手に直撃したのは大きな岩のようなものだった。
その大きさから使用された魔法は土魔法のストーンボールだと思われたが、物質が大きすぎると貫通力が低くなるのが当たり前だった。
とてもじゃないが硬いリザードマンの腕を吹っ飛ばせるほどではない。
それを可能にする強大な魔力だったてことだろうか?
先ほどの風魔法と火魔法を合わせたファイアトルネードもそうだ。
二つの属性を混ぜた魔法を戦術として人は使用しているのか?
それほど人の魔法の技術は進化しているのか。
防御するための腕が亡くなった状態なのでそのまま振るわれた剣が私の胴体を切り裂いた。
なすすべがなかった。
その後アレンの剣が私の心臓を突き刺した。
逃げている自分の後ろでお母さんが倒されるのを目の当たりにした。
私のすべてが勇者たちに壊された。
魔導士ジョセーヌのファイアボールが足元をかすめた。
来ていた服の裾が燃えていた。
翼を使って空を飛んでも風魔法を使われ気流が乱されて落下するのを繰り返していた。
放たれた石の小さな粒のようなものが私の脚に命中した。
もう動けそうにない。
次に放たれたファイアボールはかわせないと思ったその時、私の前に一人の魔族が現れ盾となってくれた。
彼はキングリザードマンのリュグ。
私の母の領地の東に接する領地を担当している魔王軍の指揮官の一人だ。
騒ぎを聞きつけて援軍としてやってきたのだろう。
後方にはリザードマンの軍勢が控えていた。
敵の魔導士は急いで退避していた。
その後も続々と援軍が押し寄せて人族の進出をこれ以上拡大するのは防いだものの、今まで魔族領として安全が確立された領土に橋頭堡が築かれる事態となった。
そして私の小さな世界が一瞬にして壊された日となった。
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