第7話 Don't be angry, keep smiling
傍らに倒れているバンジと、それを抱えてあたふたと難しそうに、切羽詰まったような顔をするガルを見ていた。
サシバは少しだけ微笑むと、しゃがみ込んで、腰に下げていたポーチからハサミを出すと、服を裂いた。
「弾丸を撃ち込まれたか」
「このままじゃ死ぬ」
ガルの切羽詰まった言葉に、穏やかな声で否定した。
「死なないさ」
バンジは虫の息だった。
ただ、この程度の怪我なら幾らでも見てきたし、その様な怪我を負って5から6人を殺した男をひとり知っている。
だから確信があった。
この青年は死なない、と。
だからこそダメ押しで、「死なせないさ」と言ってみた。
軍医でなくとも、応急処置というものの方法は大抵軍学校で習うものだった。
サシバが学校に入学した頃は、ちょうどその医学の齧りを習い終えたばかりに戦争が始まったが、全12回の授業すべて最高評価を貰っていたサシバはまず、傷口の様子を見た。
「弾丸は貫通していない。そして、まあ、奇跡かな。内臓にもぶつかってない。でも失血がヤバいね。俺も前蜂の巣になったことがあるからわかるよ。撃たれると死にたくないを超えて死にたくなるくらい痛いよね。でも君はそれに耐えて、生きようとしてるね。身体が熱くなってるじゃないか。だから気に入ったんだ」
「何をするんだ……このまま医者に連れて行くことは」
「無理だね。此処で応急処置を施す。そうしてから見せに行こう。でなければ、動かした衝撃でちょっと嫌なことになる。君もそれは嫌だろ? ガル。違うかい? わかってるよ。だから落ち着いて。俺は人を多く殺した悪魔だ。醜くて、いっそう死んだほうが良くて、消えてしまったほうがいい悪魔だ。戦地じゃ〝死相〟と呼ばれたよ。でも、ここにいる誰にも、まだ死相は見えてないんだ」
ポーチから道具を取り出して、確実な処置をしていく。
慣れた手つきだった。
まったく焦りもしないで、驚くほど、当たり前の手つき。
まるで日記でも書くように、まるで敗れたボタンを縫い付けるような、その手つき。
「これでよし! タイミングばっちりで救急隊もやってきたから、あとは彼らに任せよう。君は彼についてあげなさい。そして、もし早急に目が覚めたら、ちゃんと目を見て『ありかとう』って言うんだ。命をかけて護った人によそよそしくされると、人は傷付くんだぜ」
からかうように、サシバが言う。
「お前は……?」
「やることがある」
「そっか。……あの、ありがとう」
「なに? 惚れちゃったかな」
「茶化すなよ!」
「ヒッヒッヒ。じゃあねー」
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