第3話 Because it's my hometown

 終戦から2年。


 街のはずれにあるギルドにて。


「サシバ!」


 サシバと同い年ほどの若い獣人の青年が嬉しそうな面をして、駆け寄ってくる。


「久しぶりだなお前!」

「久しぶり。ガル。身長伸びたね。俺も身長伸びたよ。18の頃に此処を出たからね。あれから5年経ったんだ。お互い色々変わってしまったね。君はさらに愛おしくなったし俺はどうだろう、影も形もないくらい骸ばかりの悪魔みたいな奴になってしまった。君の手はいまも優しそうでよかった。そうだ、此処に来る前に、王都で芋のケーキなんてのを見つけてきた。これは知り合いが教えてくれたもので。食べさせてくれた時は、君が好きそうだと思って、こっちに来る時は買いたいと思ってたんだ。これを君にあげるから、どうか住める部屋を見つけるまでは此処に住ませてくれないか? どうかな、俺の部屋は空いてるかな。物置になってるとしても、俺は狭いところでも眠れるから構わないよ」

「大丈夫だよ。空いてるよ、お前の部屋。誰にも使わせてない。お前がいつでも帰ってこられる様にしてたんだ。きっと帰ってくるって思ってたから。帰ってこれたなぁ、お前ドジだからどっかで死んでたりしたら俺もうどうしようもないくらいに墓の前で笑ってやろうと思ってたんだぜ」


 サシバは獣人ガルに微笑みかけると、ギルドの中に入った。


 ギルドとは、いろいろな商業の合流地点のようなもので、簡単に言えば、ショッピングモールのようなものである。


 いろいろな店舗がギルド内に入っているのだ。


 ガルはそのギルドの組合長であった。


 ギルドは居住スペースもあり、そもそもガルとサシバが出会ったのは、天涯孤独になったサシバがギルド内の八百屋に拾われたからだった。


 当時組合長だった父の紹介で少年だったガルは同じく少年だったサシバと仲良くなった。


「みんな! 今日はいいことがあった! なんと、戦争に行っていた俺の幼馴染が帰ってきたんだ! 紹介するよ! サシバだ!」

「おお。これが話に聞く!」


 ギルドの組合員たちが義務的な拍手で出迎えた。


 しかし……その中で、腹立たしいという様な顔をする奴も居た。


「聞いてた話から想像してた『〝渡り鳥〟のサシバくん』じゃねェなァ〜」


 銃砲店に勤めているバンジという男だった。


「俺のことはなんと?」

「陽気でお喋り屋で一緒にいると楽しい奴」

「へえ、嬉しい限りだ」


 余裕そうに微笑むサシバに、バンジはことさら腹が立ったようだった。


「俺が気に食わないかい?」

「当たり前だ。まつりごとの右や左やで人を簡単に殺せてしまう殺人鬼が子供も多く集まるこんな所に現れたんじゃ、誰も安心してきてくれない。俺はよ、子供を泣かせるような事をされるとキレちまうぜェ、兵隊さんよォ……!」


 サシバは、その言葉を聞いて、さらに笑った。嬉しくなったのだ。


「久しぶりに実家に帰ってきたので……少し調子に乗りすぎたな。……ガル、これお菓子。シャルと食べて。戦友に近くの家を借りてもらう約束をしていたのを思い出した」

「はっ? えっ、行っちまうのか」

「俺も子供には血の匂いなんぞ嗅がないで、笑顔でお買い物を楽しんでほしいからね。近々遊びに来るかも知れないから、その時は警備を倍にしろよ」


 ガルは咄嗟に声をあげた。


「反故にされたら!? その約束反故にされたらどうすんだよ」


 行ってほしくない、というのが正直なところだった。また不幸な戦争が始まったら、サシバの性格的に、真っ先に向かってしまうかも知れなかった。


「俺は渡り鳥だぜ」


 サシバは笑って、ガルの頭をポンと小さく叩いた。


「何処かに流れるさ」

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