第2話 Love this person as a living being

 この四季というのは実に厄介で、1年冬が続けば、1年春が続き、春が終われば、1年夏が続き、それが終われば秋の1年が来る。


 ブラスクエア侵攻の年は冬だった。


 農民はたいていが室内での栽培を行っていた。


 そのため、比較的、室内での栽培に長けていたネギやショウガが頻繁に流通される。


 スープはそういう物が使われる。


 1963年は冬の年だった。


 全身に傷を負ったジャーロ王国の陸軍兵たちはそのスープと、携帯用の乾燥したパンを食べていた。


 その中に。


 軍医をしていたシンパーポックは、顔面に大きなヒビを入れて、死んだ兵士の亡骸を抱き、涙を流す兵士を見ていた。


 その男は赤い髪をしていた。


 赤い瞳は軽く発光していた。昔父から同じ様な話を聞いた。青い髪に青い瞳の男。顔のヒビは青く輝き回転式拳銃を撫でながら笑っていたという。


 男は、〝渡り鳥〟という異名を付けられていた。

 戦場から戦場を渡り移っていたのだとか。


 その青瞳の男は国の内地で幼少の頃から猪撃ちをしてきた狩人の生まれであった。


 しかし、27の頃に娼婦27人殺しを行い、警察に目をかけられ、世界政府から指名手配ウォンテッドとして100万デリーの懸賞金を掛けられた。


 男は、生化学研究所で遺伝子に赤色素を入れ、髪色と瞳の色を青から赤に変えた。


 その後、孤児院の院長を茹でて酒場の客にビーフシチューとして振る舞った。


 そして、そのビーフシチューには毒が含まれていた。しかし、偶然医学を齧っていたウォンクライ・C・カラスミという学生が解毒をし、その潜伏先を警察に通報したところで、その男は逮捕され、死刑を待つのみとなった。


 しかし1週間後に兵が招集された。

 そこに死刑囚がおおく貸し出された。


 そこで死ね、ということだろう。


 青瞳男には運があった。


 戦場は青瞳男の生き場所だった。


 男には正義があった。昔から正義の為ならばなんでもしていいとそう言われていた。


「最初に殺したのは」


 若かったシンパーポックの父は青瞳男から話を聞くことに成功した。


「母をいじめていた10人の女と、母を輪姦した17人の男の妻だ。幸い頭が良くなかった脳足りんだったから、全員娼婦になっていた」

「次に殺した酒場の男たちは?」

「兄が好きだった物と同じ酒を飲んでいた」

「それだけ?」

「人を殺すのに理由が必要かい? ヒュッヒュッヒュ。セルバーポックく〜ん。かわいいねェ、私の子を生まないか」

「……ご生憎、私は男だ」


 シンパーポックは赤髪の男に声を掛けた。


「君、顔が傷ついている」

「気にしないでください。気にしないでください。俺の事は気にしないでください。どうかこの遺体を、どうかこの男の故郷に届けてください。俺は良いから。俺はこの地で穢れて死ぬから、この男は」

「落ち着いてください。どうか落ち着いてください。どうしたんですか」

「俺はいいから、この人を。この人は俺を救って死にました。俺なんかの汚れた醜い悪魔を救って死にました。無駄死ににしたくないから、俺は大勢の命を救います。これから、狙撃手になってくるので、どうか、この人をこの人の故郷の、この人の家族と同じ墓に。どうかこの人が、最後まで人だったという証明を、お願いできませんか」


 シンパーポックはすぐに、その男が青瞳男の血縁だということがわかった。


 だからこそ、驚きがあった。


「この人が遺してくれた銃でこれまでも大勢人を殺しました。あと少しで戦争が終わる。この戦いを終わらせないと。でないと、この人が俺を救ってくれた意味がなくなる」


 シンパーポックは怒った。


 切羽詰まって判断力がおかしなことになっているこの父と息子ほど歳の離れたこの兵士の選択を真っ向から否定したくなった。


 シンパーポックは拳銃を出して、腹を撃った。


 赤い瞳の男は唸って、そうしながらも、シンパーポックを見つめた。ぼろぼろと涙を流しながら、シンパーポックを見つめた。


「腹を撃たれては兵士として使い物にならないな! まったく! 故郷へ帰れ! 役たたずめ! 帰れ帰れ! これは感情的な行動だが理屈で言い訳をするとそういう奴がひとりでもいると軍全体のテンションが変な方向になるからぶっちゃけ要らないんだよね」



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