目覚め

目覚めた。


「起きてるか、夕飯買ってきたぞ」


父親に起こされた。

リビングに向かう。

テレビは緊急特番の公共放送が流れていた。


テーブルには父が買ってきた弁当が置かれて夕飯の準備が整っていた。

みんなでいただきますと言ってから会話が始まる。


「まったく大変なことになってるのによく眠ってたみたいね。洗濯はお父さんにしてもらったわ。お父さんが無事帰って来れて安心したわ」


「寝てしまってたんだよ。ごめん。どうなってるの?」


そういえば声をかけられた時、呼ばれていたな。ダンジョンマスターのことは置いといて手伝うべきだったかな。


自己嫌悪。


「しばらく外には出れないな。幸い非常食は沢山買い込んであるから、安心しろ。世の中おかしくなってしまった」


父は定年後も再就職して働いている。

そんな父が世の終わりとばかりに言い放った。いままで見たことのない姿だった。


よく見ようともしてなかっただけかもしれかいなと少し思った。


テレビのニュースが耳に入ってくる。


謎の建造物、ダンジョン、政府は未確認勢力の武装蜂起、また出現した怪物を生物兵器として自衛隊の出動を決定しました。在日米軍も活動しているそうです。

また内閣は国家公安委員会の勧告に基づいて緊急事態宣言を発令、外出の自粛を国民に呼びかけています。これは今までに例のない非常事態です。命に関わる危険が迫っています。身の回りの安全に十分に注意してください。


なんてことがテレビから報じられていた。


それを聞きながら手元のスマホでささっと調べると、人を襲う人、噛まれると怪物になってしまういわゆるゾンビや、見たことのない大型の熊、ウィルオウィスプのような中に浮く火の玉妖怪鬼火、などなど空想上の怪物がその謎の建造物……ダンジョンから現れているらしい。


「ダンジョンだってさ。たしか好きよねこういうの、詳しいでしょ。喜ぶかと思ったのに、ぐっすり寝てるんだもん」


暗い空気を払おうと母は俺に明るくそういった。

部屋から出てこうしてリビングにいると少し暖かい気持ちになれる。

もうダンジョンマスターになって食事や睡眠の必要がないというのに父が買ってきたお弁当はおいしかった。


「ファンタジーが現実になったってことだよね。ダンジョンにモンスター、ステータスに魔法……さっきちらっとみたネットじゃ大盛り上がりだよ。テレビはどうなのか知らないけどさ」


テレビの論調とネットの論調は違う。

母はよくテレビを見ている。

だから俺はそう答えた。


「そうね、テレビじゃ若者にはなにか声が聞こえたって聞いたわよ。ヒーローになれるとか」


「人類の守護者、冒険者って話だよね。いや、俺には聞こえなかったよ。俺は若者にはもう入らないよ」


30過ぎだからな……。


「そ、そう。好きなのに残念だったわね。まだまだ若いわよ」


微妙な空気の中、父が話す。


「本当に無事でよかった。危険すぎる。そんな変なもの聞こえないに越したことはないだろう」


「そ、そうね。ごめんなさい」


結局、ダンジョンマスターになったことは両親に話せなかった。




夕飯を終えたあと部屋に戻ってきた。

ダンジョンを創る時間だ。

あのチュートリアルは本当にズボラなAIだった。知識だけ植え付けて終わりってなんだよ。


その知識から把握するにいまダンジョン作成から運用まで全て俺の脳内で操作ができるようになっているらしい。

今の俺は脳内でシミュレーションができるようになっている。

ダンジョンの立地から入り口のデザイン、ダンジョン内の内装、モンスター、罠、それらを設定することができるようだ。


DPなるポイントを使ってありとあらゆることができそうだ。

モンスターデザインも意のままにできる。


そもそも俺がなったやりなおしのダンジョンマスターとは、と言う話なのだが。


「この世界の変化に最後に投入される最弱のダンジョンマスターか」


俺に与えられた特権は短くまとめると少し遅れてダンジョンマスターになったことと……死んだらやり直せる可能性があるらしいこと。デメリットとしてはその分、作り出せる魔物や罠、ダンジョンが最弱であることだ。


魔法がこの世界に導入された結果として仮に俺が死亡して人類文明が滅びを迎えることになる場合、俺は最初からやり直すことができるらしい。文明が滅びなかった場合は普通に死んで終わりだ。


「俺は人類文明の救世主なのかもしれない」


デュフフと厨二チックな笑みが溢れる。


過去のあれこれをやり直せる訳ではなかった。


他の普通のダンジョンマスターは数ヶ月ほど事前に声をかけられてダンジョンを準備していたらしい。彼らに与えられたDPは10万、入り口代とか建設費、維持費、魔物代、諸々、きっとカツカツだろうね。


ちなみに俺に与えられたのは1万DP

使えるものに制限までされてる。

デフォルトの強い魔物や罠というやつは使えないみたいで……。


そんな絶望的な状況で俺は今から考えるわけだ。


「そもそもダンジョンマスターとは、ということから考えた方がいいか」


ダンジョンマスターはダンジョンコアを核とする種族、ダンジョンコアさえ無事なら不老不死の不死身の状態。自分のダンジョンではDPを消費して神の如き存在となる。


破壊不可能な空間、ダンジョンを作り出し、侵入者を糧にして成長する。


「自分の生活や税金だって親任せなのに、俺にできるかな。最弱だし」


悲観はしてなかった。待ち望んでいた非日常で、ワクワクしていた。俺の精神年齢は子供なのだ。


俺はこれから異空間に眠っている俺のダンジョンコアに繋がる空間をこの現実世界に開き、ダンジョンを運営していかなければならない。
















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