ステータスオープン

「ステータスオープン」


こんなセリフをリアルで言うことになるなんて思いもしなかった。

あの声が聞こえた後、こういえば自分がわかることはなんとなく理解した。


不思議な体験だった。


俺の視界に表示されたのはたった3行のステータスだった。しかしたった3行ではあるが確実に非現実的で非日常を示すものだった。


名前・やりなおしのダンジョンマスター

種族・ダンジョンマスター

スキル〈ダンジョンマスター〉


「やりなおし?」


皮肉だろうか、30過ぎでやりなおしのチャンスをくれるってことだろうか。

あるいはループものか、死んだり強く願ったりしたら時間を巻き戻せるとか。


「通信制大学入学前の12年前に戻れ!あるいは15年前の高校入学! 絶対に部活には入らない……」


もしくは中学の幸せなあの日々に……。


戻らないのか!


「小学生で逃げたあの日に、なら幼稚園で逃げたあの日の前に、それがダメなんだったら1年前とか数分前でも!!」


目を閉じてそう強く願うも何も変わるわけがなかった。中学から付き合ったり別れたりしたあの子が別の人を見つけて決定的に別れることになった3年前とかでもダメですかね。


いや、また別れるだけか。


「はぁ、はぁ、はぁ。どうしてだよ」


過去のやり直しを願うなんてことは過去のトラウマだけが脳裏によぎって死にたくなるだけだった。


わかったのはダンジョンマスターとやらになったことだけ。

もしくは俺の頭が狂ったか。


俺の部屋の扉がノックされる。


「大丈夫かい? 起きてるのかい? ニュース速報見たかしら。ネットはどうなってるか知ってたら教えてくれると嬉しいんだけど!」


母親が扉越しに声をかけてくる。


「いや! 見てないよ!」


「なんでも物騒な事件が起きてるようだよ! いまお父さんが買い物に行ってるから心配でね。早く帰ってきてと連絡はしといたんだよ。あぁ、それと洗濯物手伝って欲しいし、暇だったらリビングにきておくれよ!」


「それは心配だね! わかった! 落ち着いたらそっちにいくよ」


そうだ、何が起きているかスマホで調べたらいいんだ。


俺は一体何が起きてるのかスマホで調べ始めることにした。



どうやら世界は混乱の中にあるらしい。

突如として各地に謎の建造物が出現。扉だったり塔だったり城のようなものだったりと見た目の統一性はないが、そのどれもが異空間としか言いようのない空間への入り口となっているそんな謎の構造物。

世界各地に次々にそんなものが現れ続けているらしい。

また中からは危険な怪物が現れたと……。


また多くの人が声を聞いたとか。その内容は俺の聞いたものとは違った。


〈ダンジョンの侵略が始まりました。人類の守護者へと至ってください。あなたは今日から冒険者です〉


と言われたと多くの人がネットでコメントしていた。


「そもそも真偽不明だけれど、俺は違う声だった」


〈あなたはダンジョンマスターに選ばれました。おめでとうございます。今日からダンジョンマスターです〉


ネット上での呟きアプリでダンジョンマスターで検索してもそういったジャンルのネット小説の話しかヒットしなかった。

流石にダンジョンマスターについてネットで呟くようなバカはいないのか……呟いたが最後、一瞬で身元特定されてることだろうからな。


今朝見た夢のように……。

あれは何かのお告げだったのかな。


夢は神様からのお告げである。


高校の頃、キリスト教系の教師がそんな事を言っていた。

なら例えばこんな状況を作り出した神様的な超常存在がそんなバカな奴がいたこと自体、その存在をお消しになったのだろうか……それはもう考えても仕方ないか。


今俺はダンジョンマスターになったのか?

俺のいるこの家は東京23区外の駅近のオートロックマンションの7階だ。この部屋にダンジョンを作れたりするのだろうか。


そう考えるとまた声が聞こえてきた。


〈現在は不可能です。ダンジョンを創るにはスキルダンジョンマスターを使用してください〉


何が起こってる?


〈チュートリアルです〉


チュートリアルAIという奴か

いや、超常存在、神の使い、天使様……?


〈チュートリアルAIです〉


ならばいつまで質問に答えてくれる?

なぜ俺をダンジョンマスターにしたんだ?

やりなおしのダンジョンマスターとはなんなんだ?

世界はどうなっている?


無数の質問が脳内を走る。


「アガッ!イェッオェ!」


強制的に知識をインストールされた。

快楽とも苦痛ともいえない頭の異物感に今まで人生で出したことのない声が出た。


〈チュートリアルを実行しました。活動を終了します〉


人類はダンジョンマスターと冒険者に分かたれた。魔力が生まれファンタジーが始まった。原因はわからないけれどそうなった。

俺はダンジョンマスターとしてダンジョンの作り方、魔物や罠の作り方、宝箱やドロップアイテムの選び方などがわかるようになった。


「俺、弱くね……」


そしてその中でも俺は最弱のダンジョンマスターになったらしい。


知識をインストールされた反動で俺は眠りについてしまった。







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