今日からダンジョンマスター

@7576

今日からダンジョンマスター

悪夢を見た……なにやら不思議な声がしたらダンジョンマスターになってしまい、そんな幻聴が聞こえたことをネットに呟いたらマンションである我が家に勇者気取りの殺人鬼が押し入ってきて殺されるリアルな夢だった。


まったくネット小説の見過ぎだった。


占いを信じていないが不安になって夢占いを検索する。

誰かに殺される夢は人生が変わる転機が訪れる吉兆らしいと書かれていた。


ただこの占いサイト、女性向けの派遣サイトが運営してる占いサイトで、男の俺がこんな人の弱みにつけこむような拝金サイトを見ている事に気分が落ち込んだ。


不安になった人間に対してこんなものをみせてアクセスする人間を集めて、どこぞから広告料をもらってるんだろう?


そう思ったのだ。

不安な人を元気づけていると言えるのかもしれないが、俺には嫌悪感があった。


「はぁ、宝くじ当たらないかな」


そう呟く俺の名前は……どうでもいいか。

30代ニート、高卒、引きこもり、バイト経験さえ無し、ネット小説……今ではWEB小説か、それを読みまくって気づいたらこんな歳になっていた。中身は小学生で止まってるこどおじってやつだ。いや幼稚園児かも、小学校は不登校だったし、中学校も不登校児の集まるようなところだったし。

沢山働いてくれている親のおかげでここまで生きながらえただけの存在だ。


「金さえあれば、死ぬまでこの生活を続けたいな……」


スマホ片手に泣きながら、この狭い部屋から覗くネット小説、異世界転生物語達がいまの俺の人生の全てだった。


「涙が出てくるな」


スマホの見過ぎによるドライアイか、こんな人生に泣いているのか、運動不足で太った身体が睡魔に負けそうになってでたあくびのせいか、この涙の意味も、もうわからない。


ぐちゃぐちゃの人生を送ってきた。

容易く捨てられたけれど、恋人がいたこともあった。


通信制の大学だったけれど卒業できていればこんなことにはならなかったかな。

もしくは働けたらこんなことにはならなかったかな。


どうにかならないかと単発バイトを調べたこともあった。ハローワークに相談しにもいったが。やる気力もでなかった。履歴書を書いて面接? 

クソ雑魚な俺にはハードルが高かった。

望むのはただこの静かな平穏が続くこと……それでも何か救いを求めている。


真の弱者は救いを与えられてもそれに応えることはできないのだ。


どこかで聞いた言葉が脳内に流れてくる。

俺には救われるチャンスがあっただろう。


そして今もきっとある。

なのに俺にはそれが見えないんだ。

ここでスマホを眺めていることしかできない。


あぁ異世界は素晴らしいな……。

チート転生、無双、ハーレム、勝ち組。

努力、愛、幸せ。

物語の彼らは努力し、夢を叶える。

時に作者から絶望や憎しみを与えられるがそれらを乗り越えて読者に感動と夢を与える。

作者の性癖や願望を達成する為だけの世界もあるだろう。

そこには夢があった。

希望があった。



(この読書によってお金を稼ぐ奴がいて俺は養分か……俺はここで死にたくなっているのに、読んでいる俺にも金をくれ)


何も生み出していないのにそんな気持ちになることがある。


仕事とは社会に対する貢献である。


どこかで聞いた言葉が湧いてくる。

社会に何か俺が貢献できることはあるのだろうか。


「涙が出てくるな、俺がゴミすぎて」


俺はひねくれすぎた自分が嫌いだ。

努力できない自分が嫌いだ。


頭を回して、手を動かし、体を動かし、日々の積み重ねを行う。

社会に対して隣人に対して何かを行う。


それは日々、昨日より今日が良くなるだろう、善なる事だ。


毎日歯を磨き、お風呂に入ること。

毎日決まった筋肉トレーニングをして体を鍛えること。

毎日学校に行くこと。

毎日仕事を行うこと。


あたりまえのことがあたりまえにできること、それが俺にはできない。


いや、流石に歯磨きして風呂には入っているが、まぁたとえというやつだ。しんどいことだといいたいわけで。


あぁ、俺にも力が欲しい。それも正しく善の方向に向かう力が……努力とか、やる気とか善なる心とか……あぁ、誰か!神様!大いなる存在よ!どうか私に力を与えてください。道を示して欲しい。良い人間になりたい!!


じゃなければこの命、誰かにあげて欲しい!


死ぬのは怖いからポックリとさぁ!誰か善なることが出来るやつにこの俺の分を与えてあげてくれよ!!


そんな時だった。

声が聞こえたのは。


〈あなたはダンジョンマスターに選ばれました。おめでとうございます。今日からダンジョンマスターです〉


どこかから脳内に響くのはどこか懐かしい気持ちになる優しい女性の、そんな声が聞こえた。


これが俺の、いや俺だけではなくて、この世界の非日常の始まりだった。

俺の世界が少し面白くなるのかもしれないと心が踊った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る