第8話 尾行

 最近はとても忙しい。

なにせ難破船を見つけてしまったのだ。

明らかに一山いくらのクズ鉄な状態だったら、売るだけになるので面倒は無いかもしれない。

しかし、艦首は丸ごとダメになっていたが、他はそれほどひどい状態じゃなかったのだ。

本当に直せるかは調査を進めないとわからないが、調査をするにも修理をするにも金はかかる。


 難破船の貨物室にあった物資を売ろうかとも考えたが、どこから足が付くかわからないので、今は手を出さないこととした。

なので、相変わらずゴミ拾いからの分解品がメインの売却品である。

気休め気味に採掘場から少量とれるレアメタルも塵も積もれば~と言うやつくらいには微小な売れ行きかな?

どっちも買いたたかれていると言うこともあるが、少量すぎてあんまり金になっていない。

無いよりはましだし、このくらいでも受験費用の足しにはなっているので続けていくつもりだ。


 そしてメインは資格取得である。

なにはともあれ、必要な資格はまだまだたくさんある。

最低限、小型船舶で他星系に行けるくらいの資格は必要で、意外とあれもこれも必要になるものなのがつらい。

本来は学生のうちからコツコツとっていくものなのかもしれないなぁ。


「こういう資格を一通り持ってるAIに船の操作を丸投げすればいいんじゃね?」

『そういう自動船はお高いので。』

「ですよね。」


 だと思ったよ!

金は最強の力だな。

マジそうだと思うよ。


 なので、驚くほど貧乏な俺はひたすら忙しい。

前世の記憶じゃ貧乏暇なしなんてことわざがあったっけ?


 そんなある日、採掘コロニーからの帰り道にナヴィさん謹製の「なんちゃってレーダー波探知機」に反応が出た。

デブリ検知用の船舶レーダーを修理したものだが、壊れたパーツが多すぎるのと、出力が足りないことなどもありアクティブレーダーは使えずにパッシブレーダーだけ使えるようにしたという代物である。

色々削ったことで小型化しているので、スクーターに取り付けることができたんだよね。

危機感を持っていたからこういう装置を付けたけど、まともに使えるとは正直な所、期待してなかったりもする。


 なので、普段からの予防は帰るときに数回はルートを変えるようにしている。

今みたいに尾行されていると意味はないけど、向かった方角だけで居住カプセルの位置がばれないようにと最低限の注意をしているんだ。


 反応だけではこちらの方角にレーダー波が放射されていることがわかるだけだ。

だれか尾行してるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

たまたま方角が同じだけと言う可能性も微量に存在している。

あんまりないだろうけどね。


 1%でもその可能性があるのなら、避けておくのが安全の心得ってことで。

最寄りの小惑星に向かって進路を変えて急加速です。


「ううっキツイ。」


 採掘コロニーとのルート上にある小惑星はいくつかあたりを付けている。

毎回、そのどれかを使って居住カプセルの位置が推測しずらいように細工をしているんだよ。


 今回はその一つを使って、尾行者をまいてみようと言うことだ。

レーダー波を小惑星で遮り、反応を途絶させる。


 普通なら母船に乗り込んで超高速航行でおさらばしたと考えそうだが。どうだろう?

そのように考えてくれると良いなぁ。

岩陰に隠れて推力を切るとそれだけでスクーターの熱量は極小になってしまう。

さぞや見つけづらいことだろう。


 このまま通り過ぎてくれればいいんだけど、居座って念入りに探されたらいやだなぁ。

念のために、スクーターと同じくらいの反射波になるように成形したプレートがついた打ち上げ花火みたいなロケットを相手の死角に向かって打ち出しておいた。


 1時間ほど身を潜め、周囲にレーダー波が無いことを確認してからさっさと帰還した。

ただの自意識過剰なだけだったかもしれないけど、事が起こるとこんなに怖いなんてなぁ。


 慰めてくれるナヴィさんの対応はうれしいけど、ハンドボール状の玉が頭をぐりぐりして来てもうれしくないかな?


「それでナヴィさんや。調査の進捗は?」

『第105回調査ドローンが帰還しました。』


 随分とやり取りしてんのね。

調査は進み、船の修理は諦めた方がよさげとのことに結論が出てしまった。

修理できないわけではないようだが、多大な金がかかるだろうとの結論に達したのだ。

無いのです。お金は。

ならば曳航してでかいジャンクとして売りに出すしかないよね?と、言うことで必要な資材を見積中である。


 不幸中の幸いなことに、脚の壊れている連絡艇は修理できそうとのことだった。

また、積み荷や装備の一部に売れそうなものもあったので、中古の小型船を購入することが出来るかも?だって。


「思わぬ棚ぼたで計画が前倒しになりそうだね。」

『幸運の振り替えしとか怖いですね。』

「それは本当に怖いんですが。」


 今日の「ひょっとして尾行かも?」事件はあせりましたよ。

気のせいだったらいいんだけどね。

犯罪組織が、組織から逃げ出したものが一番立ち寄りそうなところに見張りを置いてないわけもないしね。

組織の人間じゃなくても、ちょっとした小遣い稼ぎで情報を売るなんてのはごくありふれたことだし。

ちょっとした小遣いで処分されたらたまらんので、必死に何とかしなきゃ。


 現在は、ブースターをどんどん送り出して、めり込んだ小惑星から引っこ抜いてこの近くま曳航する計画を進めているんだ。

何をするにも、片道三日近くかかるのは遠すぎるんだよ。

当初は居住カプセルとおさらばして難破船に引っ越すことも考えたけど、時期尚早と却下したんだ。

まだまだゴミ捨て場から拾って曳航に使う機材も必要だし、居住カプセルを捨てたらもう一気に計画を進めなきゃならないからね。

ジャンクを売ってその金で小型船を購入してすぐさまおさらばするとか、そんなにすんなりいくとは思えないよな。


 だけど、今回の一件で計画は早める必要があるかもしれない。

ここに無防備に近い状態でいるくらいなら、かくれんぼしていた方がまだましである。と言うのが共通見解なんだよね。


「連絡艇だけ持ってこれないの?」

『貨物ハッチが小惑星側で、動かさないと取り出せません。』

「そっかぁ。」


 アラートだらけだけど、バッテリーをつないだらコンソールは起動したし、連絡艇の修理は進めた方がいいね。

曳航するのもスクーターとブースターだけより、連絡艇でやったほうが良いだろうしね。


 その後の話し合いで、しばらく採掘コロニーに近づくのはやめておこうということになり、前倒しして曳航するために難破船に向かうことになった。

拾ったタンクに推進剤を詰め込んで片道三日の旅をする。

べこべこなんだけど、漏れたりしないんだろうか?

そんなことを心配しつつも、移動時間で勉強は続けている。

 居住カプセルは0.1Gなんだけど、スクーターの加速は安定してなくてたまに苦しくなる。

普通の人なら揺れるなぁってくらいなんだろうな。

寝ている間は気にならないから、少しは体も鍛えられたんだろうか?

代り映えのしない非常食のパウチを飲みながら例題問題を解いていく。


 到着すると、だいぶ工事が進んでいることを見て取れた。

難破船の一部に括り付けるように三角帆が組まれ、発電フィルムが張られていた。

機関部が死んでるので自力で発電は出来なけど、予備バッテリーは生きていたので充電して使うことにしたんだよね。

また、船体後部のエアロックを使えるようにしてあり、艦首側のでかい穴は適当な資材でふさいで、途中の隔壁を閉鎖している。

船体中央から後部にわたってはこれで気密を確保できるらしい。

そこまで広大なエリアは必要ないので、貨物室にナヴィさんの使っているのとほぼ同じ大きさの救急カプセルを展開して仮の住居にしてみた。


 貨物室の荷物は連絡艇が固定器から外れたときの衝撃で、あちこち移動しちゃってたので改めて固定しなおしている。

ゴミで運び出せるものは軽量化のために捨ててある。

残っているのは売れそうなものだけだね。


 そんなわけで、スクーターの推進剤を補給してバッテリーを再充電する。

ブースターだけで引っこ抜くのは難しそうなんで、スクーターも使うんだ。


 有線コントロールにして、ワイヤーで船に接続。

牽引時のような力のかかる作業時に乗っているのは危険なので、俺は難破船の中で指示を出すだけだ。

タブレットで確認して忘れ物がないことをチェックして、貨物室の手すりに安全帯を引っかけておく。


「無事に離脱できますように!」


 どこぞの知らない神にでも祈ってスクーターとブースターの点火スイッチをONにした。

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