第6話 資格試験な日々

 加速Gってキツイわ。なんて軽口風に言えれば良かったんだけど、実際には帰還後に丸一日寝込むくらいには体力がなかったよ。

 しばらくナヴィさんの端末であるハンドボール状の玉がびくりとも動かなかった。

かなり心配をかけたかもしれない。

 『虚弱ですね。』と、からかってくれても良いんだよ?


 さらにへこむ情報が増えた。

周辺の探査をしていたドローンが、先輩水屋さんの居住カプセルをいくつか見つけたんだ。

そのまま棺桶になってたそうなので、そっとしておいてもらった。

 ナヴィさんが言うには、居住カプセル内のシステムログからの逆算で、どの子も成人前には亡くなっていたらしい。

えーっと、この辺の成人年齢って大雑把に15歳くらい?

何もしなければ俺もそのくらいの年齢で。と言うことか。

予想はしていたけど現実はいつだって厳しいね。


 俺だけタイムリミットを知ってへこんでいるばかりではなく、実はナヴィさんもよろしくはないんだよね。

生体素材を利用しているアンドロイドって電子頭脳だけで何とでもなるようにはできていないんだって。

何とかなるにしても、それは補器類などのバックアップがしっかりしている環境でのことなんだってさ。

ナヴィさんは優しいので隠しているようだけど、そのくらいは察せれるし、機械知性のことが書いてある資料がまるでないわけでもないしね。


 解ってはいたけど、二人ともそんなにのんびりもしていられないか。頑張ろう。


「なお、先輩たちの居住カプセルにはろくな物資はなかった感じ?」

『はい、ありませんでした。そう言うところドライですね。』


 居住カプセルは連結できるような作りでもないので価値はなかったが、スクーターと採掘機一式はいただくことにした。

組織はこういうの回収に来ないもんなんだと驚いたくらいだよ。

ナヴィさんが言うには、一般的な採掘業者が使う機材としても古くて安っぽいものなんだそうな。

どこかの古い採掘坑あたりから発掘したものかもしれないとか?

無駄なく使われているというべきか、そもそも効率考えるなら子供に採掘なんてさせないか。


 うちで使う分には問題ないので、修理して採掘場が拡大されたよ。

スクーターはゴミ捨て場から拾った機体も使って、ニコイチならぬゴコイチくらいして、スクーターらしからぬ大きさになったよ。

こんな束ねればパワーアップなんで頭悪い改造だけど、贅沢は敵です。

こんなんでも、ブースターを使わないで採掘コロニーとの往復ができるようになったんで立派なもんですよ。


「採掘場を拡大して大量の氷を集めてもしょうがなくない?」


 あすこからもらうもので必要なものなんてあまりないんだよね。

物資のほとんどはゴミ拾いで入手しているんだし。


『水しか出ない小惑星と言うはほぼないのですよ?』


 そういやそうか。

そんな小惑星があれば、わざわざ氷を精製してから運び込む必要なんてないもんな。

その辺は解らないのでナヴィさんにお任せです。


 居住カプセルの周りにも氷の板がどんどん増えていっている。

放射線防御にするとかで、氷の厚さ1mくらいのでかいカマクラに入っている状態になった。

放熱板とか太陽光発電フィルムとかは外に設置しており、氷だって透明なものじゃないので、小さな小惑星の中に住んでるような気分になる。

これで完璧に防げているわけじゃないけど、ないよりもマシなんだとか。


 ずっと働いてるナヴィさんが心配になる。

そもそも生体素材のボディが無くて状態は良くないのだ、無理をすれば取り返しがつかなくなる。


「急いでいるときほど休憩は必要だと思うんだ。」

『わかりました。』


 とか言ってハンドボール状の玉がぴったりくっついてくるのは金属フレームが冷たいので勘弁してほしいかも?

休憩する余裕がないから、半休憩状態でも単純作業は続けているんだろうな。

すっかりナヴィさんに依存した生活になっているな。


 こちらはこちらで出来ることをやりましょう。

必死に勉強するよ。

 模擬試験で合格ラインまで行ったら、採掘ステーションに行って受験する日々。

新しいスクーターは負荷の軽い加速をずっと続けることで、最終的な往復の時間は短縮されているみたいだ。


 採掘コロニーには受験だけに行くのではなく、品物の売却もするようになった。

ゴミ捨て場から拾ったジャンク品の価値のありそうなものや、採掘場から少量手に入っているレアメタルなんかも売れるんだ。

儲けはほとんどないけど、受験費用プラスアルファくらいにはなっているので、貴重な外貨稼ぎの手段となっている。

船がないので、仕事を受けれないんだけど、今は準備期間と割り切って取れる資格はとりまくっておくつもりだ。


『船と言うのはそこにあるだけでも維持費がかかるのです。』


 前世の地球でも、港に放棄されているように見える小型の漁船でも港の使用量とか維持費とか結構かかってるんだっけ?

宇宙船だともっとお金かかるんだろうな。


「採掘コロニーに水を売りに行けないだろうか?」

『最低限の販売単位が百トンでしたので、スクーターでは運べませんね。』

「無念。」


 この調子じゃいつ船を買えるかわからないな。と、焦りそうになるがナヴィさんになだめられながら勉強を頑張る。

そもそも船を入手しても資格が足りなくて、別星系まで航行できないし、船主にもなれないんだよね。


 いつものように勉強に明け暮れていたら、急にハンドボール状の端末が跳ね回り始めた。


「ちょ!?痛くは無いけど普通に迷惑!?」


 がしっと捕まえて興奮するナヴィさんに確認すれば、船が見つかったかも?とか。


「マジデ!?」


 掘り出し物を購入できそうなのかな?事故物件とか?違うの?座礁している船を見つけた?


 ちょっと興奮してきた。

ゲームなんかでもよくある難破船探索ミッションってやつかな?

異星人のクリーチャーが潜んでいて、探索者が次々と食われていくやつだよね?


『どんなホラームービーですか!?』


 見た目がボールなのに細かいリアクションできるもんだ。

ナヴィさん芸達者だよなぁ。


 自分よりはるかに興奮している人がいると、逆に冷静になるってヤツなんだろうか?

詳しく話を聞くことにした。

 修理して乗れるようになれば最高だけど、ダメでもジャンクパーツとして高く買い取ってもらえそうだもんね。

宝くじ当選級のチャンスが巡ってきたのかも?

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